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スコッチウイスキーのラベル規定ー【後半】規定遵守と新しい価値の創造
前回の記事で、スコッチウイスキーのラベルについてプライベートラベルを作る際の規定「Scotch Whisky Association - The Scotch Whisky Regulations」を簡潔に紹介しました。
この記事では、この規定が何のためにあるのか、日本でも守らなければいけないのか、これまでのNG事例は何か、規定を遵守しながら新しい価値は創造できるか、といった内容について書いていきます。
ラベル規定は何のためにあるのか
スコッチウイスキーのブランド保護と消費者保護。大きく挙げると、この2つの保護のためにあります。
第一義的には地理的表示制度に基づく原産性の保証による品質保証です。これは、例えばスコットランド以外の国で製造された粗悪な製品(または、ほんの僅かなスコッチウイスキーを混ぜた製品)を、100%スコッチウイスキーだと称して販売するような悪質な業者によって、スコッチウイスキーのブランドが毀損されることがないようにするためです。
また、こうした偽スコッチウイスキーの存在を消費者に向けて注意喚起をしながら、正しいスコッチウイスキーとは何かを普及啓発することで、消費者保護の役割も果たしています。
同時に、対内的にもスコットランドの各蒸留所やブレンダーおよびボトラーズ各社が製造・販売するスコッチウイスキーのブランドを保護し、その品質を保証することで、消費者にとっての信頼性の向上という効果もあります。
一見すると細かすぎるとも思ってしまう規定ですが、この規定の根幹は地理的表示制度であり、世界的なスコッチウイスキーの地位保全やブランド保護、品質保証などによる消費者保護を満たすための規定です。
日本でも守らなければいけないのか
ラベル記載内容のみに言及すると、日本においては、必ず守らなければいけないパターンと、実は比較的緩いパターンがあります。
ラベル規定への対応パターンは、取引契約によって概ね下記の通りです。
① スコットランドでラベルを貼る
【遵守度:高】
前回の記事の通り、全てSWAの規定に準じなければいけません。準じていないと現地から出荷ができませんので、「守らなければいけない」というより「必然的に守る」ことになります。
これは最もスタンダードな方法で、DRAMLADもこのパターンです。供給元と紙質や箔押しの有無、キャップシールの色、ボトル形状、コストなど細かな打ち合わせをしてラベルデータを送付しています。
注意点として、ラベル制作時のカラープロファイル指定や現地との打ち合わせがしっかりできないと、望んでいた色ではないラベルになる場合があります。
② 日本で印刷してスコットランドで貼付
【遵守度:高】
供給元によっては、プライベートボトルは「ラベル貼付はスコットランドでするけれど、そのラベル自体は輸入者が用意する」という契約の場合があります。
この場合、ラベルは日本で用意してスコットランドへ送りますが、印刷前にSWA規定に準じているか供給元のチェックがあります。スコットランドで貼付しますので、当然ラベル規定を守る必要があります。
紙質を日本で選べますし、色味も希望通りに仕上がりますので、規定を守った上で理想的なラベルにすることができます。
このパターンでは、印刷コストや輸送コストが別途発生します。また、現地でのラベル貼付の方法によっては特殊な形状がNGだったり、接着面の糊の指定があったりしますので、供給元と事前の打ち合わせが重要です。
③ 日本でラベルを貼り替える
【遵守度:低】
輸入後に国内でラベルを貼るパターンです。ボトリングまでは供給元が行うけれど、ラベル貼付については輸入者が入荷後に行う場合がこれに該当します。
スコットランドでラベルを貼らないので、ラベルデザインの自由度は格段に上がります。特にフォントサイズが指定されている項目については制約に縛られることなくデザインできます。また、ボトリング自体はスコットランドですので、Scotch Whisky表記もProduct of Scotland(原産地呼称)も可能です。
一見、素晴らしい方法に見えますが、入荷後のラベル貼付作業の人的・時間的コストが発生します。
現在、ラベルが貼られていないスコッチウイスキーは輸出できませんので、入荷後に輸出時のラベルを剥がして再貼付する作業になります。(ほぼ再剥離タイプなので、それほど手間はかからないですが)
また、このパターンは非常に限られており、通常の契約であれば、①か②のどちらかになります。
このパターンでも一般的には当然に原産地呼称やScotch Whisky表記を記載してリリースしますので、「守らなければいけない」という意識よりも、「結果的に守っている」ラベルの方が圧倒的に多いです。
④ 日本で詰め替える
【遵守度:無】
バルクやその他の方法によって国内に持ち込まれたスコッチウイスキーを国内でボトリングする場合、"スコットランド以外の国でのボトリング"に該当します。
ですので、ラベルにScotch WhiskyやProduct of Scotlandの記載をすることはできません。また、仮に100%スコットランドの蒸留所の原酒であったとしても、その蒸留所名を記載することはできません。
規定による一切の制約を受けませんので、ラベルは自由にデザインすることができますが、地理的表示制度に基づく原産性の保証は得られませんので、消費者保護の観点から疑問が残る手法であると言えるでしょう。
これまでのNG事例
では、実際にどのようなケースでNGになって、修正を求められたのか、いくつかの事例を挙げてみます。
ここでの事例は、全てスコットランドでラベル貼付をする場合のものです。
【事例 ①】
バーの周年ラベルで「"〇〇th Anniversary"という文言が規定に抵触する危険があるから修正しなさい」といった事例を経験しました。具体的には、周年の数字が熟成年数の記載より大きいから、でした。
これを回避するためには、例えば「Bar 〇〇 - 〇〇th Anniversary Bottling」というように、その意味を説明文として読み取れる文章であると判断できるような記載をすることで回避できます。また、熟成年数の数字よりも小さくすることで通りました。
【事例 ②】
Single Malt Scotch Whiskyの表記よりも、蒸溜所名を大きく記載したラベルについて、小さくするよう修正を求められました。また、同程度の大きさでも蒸溜所名を小さくするようにと言われたこともありました。
ここで意外に厄介なのが、スクリプトフォント(筆記体)です。大文字と小文字の大きさが極端に異なるスクリプトフォントの場合、Single Malt Scotch Whisky表記が小さく見え、視認性の面で修正されたり、数ミリ単位で蒸溜所名を小さくするよう求められたりすることがあります。
これについては、例えば小文字の部分のみpt数を上げることで修正無く進められることがあります。
その他のセリフ、サンセリフの場合、Single Malt Scotch Whisky表記を全て大文字にする、小文字をスモールキャピタルにすることで、表記を大きく見せることも可能です。
![](https://assets.st-note.com/img/1641876738456-yWBzz2EKGu.png?width=1200)
また、Single Malt Scotch Whisky表記を大きくするか、蒸溜所名を小さくするかは、デザイン面に大きく関わることですのでバランスを見ながら進めていくことになります。
【事例 ③】
ラベルデザイン上、容量とアルコール度数を小さく表示したいことがあります。しかし、あくまでも経験上ですが、数字部分のフォントサイズ(高さ)が14pt以下だと大きくするよう修正を求められることがありました。また、フォントスタイルによっては、同じ14ptでも高さが足りない場合がありますので注意が必要です。
容量と度数の記載は、日本の食品表示法における表示義務と同義のものであると考えると、デザインよりも消費者への視認性を重視しなければならないことがお分かりいただけるかと思います。
その他、消費者に対してスコッチウイスキーだと誤認させる事例として、SWA公式サイトにケーススタディが掲載されています。
規定を遵守しながら新しい価値は創造できるか
結論から言いますと可能です。何故なら、規定を遵守しながらも新しい価値を創造するための最適解はブランディングにあると考えているためです。
DRAMLADの場合、まだサンプルも手元に無い事業構想の段階から、自社のヴィジョンとマーケットでの立ち位置や存在意義、提供していく「価値」を策定して、テイスティングチームによる商品決定と、3つのレンジを定義付けして展開していくことを決めていました。
その過程は過去記事に掲載していますので、ご一読いただければ幸いです。
それらを明確に伝えていくための表現手法の1つがラベルであると考え、その考えに基づいて、原点回帰的・王道的なトラディッショナルなラベルデザインを強く意識して設計しています。
これらのブランディングを基にラベルを作成し、全てスコットランドでラベル貼付していますので、ラベルに記載されている文言は全てSWAの規定を遵守しており、「守らなければいけない」ではなく「積極的に守っていく」姿勢を取っています。
何故なら、私達DRAMLADがリリースしていくウイスキーがスコッチウイスキーであることに誇りを持っているからです。
このように、ブランディングが構築できていればSWA規定を遵守しながら新しい価値を創造することは充分に可能です。
最後に
新しい価値を創造することは非常にエキサイティングなことです。しかし同時に、もし何か新しいことを生み出したとき(生み出そうとしたとき)、それが現行の規定に則っているかどうかを精査することもまた非常に重要です。
規定を精査せずに「誰もやっていない新しいこと」に固執することで結果的に是正勧告等で修正を余儀なくされれば、それまでに情熱を注いできた時間・開発コストが無駄になるばかりでなく、万が一、消費者に誤解・誤認を与えることなってしまっては元も子もありません。更には、もし仮に今以上に厳しい規定を定められる要因となってしまったら、それこそ将来的に誰かの新しい価値を潰すことになりかねません。
冒頭にも書いたように、これらの規定の根幹は、地理的表示制度に基づく原産性の保証による品質保証、消費者保護です。言い換えれば、私達消費者が安心してスコッチウイスキーを手に取ることができるのも、規定によって保証されており、生産者・販社が適切に規定を遵守しているからだと言えるでしょう。
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ウイスキー片手に読んでいただければ幸いです。
最後までご覧いただきありがとうございました。