プライベートブランドとしてのセグメンテーション
ウイスキー・プライベートブランド・カンパニーとして、DRAMLADがブランドとしての「価値」を示し、共感や信頼を得るために存在理由を明確に示す必要がある上で、DRAMLAD事業構想の段階でブランディングとマーケティングの調査・分析を行い、ブランドとしての定義付けをしました。
そのプロセスにおいて、最初に取り掛かったのがセグメンテーションとポジショニングです。
ブランディングの第一歩としてはセオリー通りではありますが、今回は実際に行ったセグメンテーションについて書いています。
"ウイスキー・プライベートブランド・カンパニー"の意味については、こちらの記事をご覧ください。
要素を書き出していく
まずは、DRAMLADがボトルをリリースしていくとき、どういった人達が購入して飲むだろうか(マーケットの予測)、どういう人達に購入してほしくて飲んでほしいのか(こちらの希望)を、全て書き出していきました。
例えば、ウイスキーに関連する年齢・嗜好・心理・業態・収入・行動・・・といった基本的なセグメントを書き出していくのですが、最初からターゲットを予測しながら書き出すと視野が狭くなります。
オフィシャルもボトラーズも、スコッチもアメリカンもジャパニーズも・・・とにかくウイスキーを飲む人達を全体として捉え、思いつく限りを洗い出すように書き出しました。
タイトルに沿ってセグメントを紐付けする
次に、DRAMLADがリリースしていこうとするウイスキーのジャンルを、セグメントする上でのタイトルとしました。この場合のタイトルは「シングルカスク、カスクストレングスでボトリングされた、自社オリジナルラベルのスコッチウイスキー」ということになります。
このタイトルに沿って、基本的なセグメントを紐付けしていきます。
●普段はオフィシャルを飲んでいて、最近少しずつボトラーズにも関心を持ち始めている
●ボトラーズへの関心が高く、新作情報や話題商品のチェックに余念がなく、毎月ペースで購入している
●モルトへの造詣が深い、自分が本当に好きなものだけを買いたい、本当に欲しいものは金額を惜しまない
・・・といった感じです。
タイトルに沿った紐付けの段階で、ある程度の振るい分けが発生します。
例えば、「超絶オールドファンで、モルトへの造詣が深く、かつては熱心にボトル収集していたものの、最近の原酒枯渇や高騰ぶりに辟易しており、最近のボトルはたまにBarで飲むことがほとんど」という、ウイスキー沼の猛者層。
この層が、DRAMLADでボトルをリリースしたときに見込み客として挙げられるのかと言われればNOです。NOというより優先順位としては下位である、と言った方が良いかもしれません。
一方で、この層であっても、そこに「好きなウイスキーは、とにかく欲しいので買いたい」という要素が加わると、見込み客としての順位が上がってきます。イメージを固定させないということです。
見えてきた3種類のレンジ
こうして、細分化されたセグメントを紐付けしていくことで見えてきた大きなまとまりのセグメントが、DRAMLADの場合は3つに絞り込まれました。
この3つのセグメントに対して、現在のボトラーズ・シングルカスクの価格帯を当てはめていった結果、DRAMLADで展開していくべき商品群のまとまりが見えてきました。
それを仮に「エントリーモデル」、「メインモデル」、「ハイエンドモデル」として設定し、それぞれのレンジが果たすべきブランド価値や役割を肉付けしていきます。
ここで注意を払ったのが、決めつけを除外して、シチュエーションや嗜好、現在のウイスキーの個性が、3種類のレンジにどのように関連していくかを考えていくことでした。
セグメントをブランド化していく
例えば、「エントリーモデル」のメインの見込み客はエントリーユーザーやライトユーザーですが、決してそれらのユーザー層だけにフォーカスした商品群ではありません。
1万円以下で購入できるボトラーズ・シングルカスクとしては低価格帯に分類されるレンジなので短熟リリースが多いだろう、という点は恐らくすぐに予想できると思います。
では、短熟がエントリーユーザーまたはライトユーザー向けなのか?というと、これは全くの間違いです。
DRAMLADのエントリーモデル「THE AGE of INNOCENCE」は、ホームページで次のように紹介しています。
"THE AGE of INNOCENCE"
Brand Concept
若いウイスキーが持つ楽しさ。
例えばそれは、熟成に強く影響を受ける前の原酒本来の味わいを知ること。また、短熟オールドボトルが「あの時代にしかない味わい」だったように「今この時代にしかない味わい」を愉しむこと。
あるいは、バーボン樽やシェリー樽に限らず、ワイン樽、ブランデー樽など様々な樽での熟成やフィニッシュにある今の作り手の飽くなき探求心を知り「新鮮な驚き」や「新しい発見」を得ること。
若いウイスキーが持つ、「純粋さ」と「新鮮さ」を知り、それを愉しむ。
そのエキサイティングな体験を、手に取りやすいプライスで。
また、直近でリリースした(2021年9月15日 現在完売)、「THE AGE of INNOCENCE リンクウッド 2010-2021 11yo Hogshead」の事前予告として、SNSに次のように投稿しました。
蒸溜所の長い歴史の中で育まれ、紡がれ、未来へ受け継がれていく伝統。そして、歴史という長い線に確かに存在する「今」という点。
「今」という点の連続こそが、やがて「歴史」と呼ばれる長い線になるのなら、まさしく「今」を体現している短熟ウイスキーの個性を知り、今この時代にしかない味わいを愉しむことは、とても意義深くエキサイティングな体験なのかもしれません。
細かな点は他の機会に説明しますが、単に低価格の短熟ウイスキーというスペック偏重の概念を超えて、このレンジだけが持っている楽しさや意義、リリースしていく想い、といったものをコンセプトとして載せています。
特にSNSに掲載した「歴史」と「今」については、ウイスキーファンでも気付いていない方が多く、共感していただけると嬉しいなと願っていることでもあります。
メインモデルとハイエンドモデルも、同じプロセスでコンセプトを創りましたが、それはまた別の機会に書きます。
まとめ
●思いつく限り全てを洗い出すように要素を書き出していく
●自社商品の分かりやすいタイトルをつける
●タイトルに沿った紐付けをして大きなまとまりにする
●価格帯や商品の個性、価値を肉付けしてブランド化する
多種多彩なラベルのウイスキーがマーケットに溢れる中、DRAMLADがブランドとしての「価値」を示し、共感や信頼を得るために存在理由を明確に示す必要がある上でのブランドとしての定義付け。その最初期段階となるセグメンテーションのプロセスについて書きました。
ウイスキー片手に読んでいただければ幸いです。
次回は、ポジショニングについて書いていこうと思います。
最後までご覧いただきありがとうございました。
※1)DRAMLADはウイスキー会社ですので、ブランディングやマーケティングのプロではありません。あくまでも、事業の構想段階で自社のウイスキーにどのように価値を持たせてリリースしていくのかに着目して実践したプロセスを書いています。手法や順番に間違いがあるかもしれません。ご了承ください。
※2)こういうセグメンテーションやポジショニングは、様々なフレームワークが存在していますので、自分に合ったものを探して選ぶのが良いかと思います。また、こうしたフレームワークは頭の中にあるイメージを整理して検証や分析するツールとしては有効である一方、連続的な論理構造や個々の相関関係には矛盾点も多いです。先に論点や目指す方向性・目的が決まっていないと、何の意味もなく無駄な時間を費やすだけに陥りがちなので、スタートアップやリブランディングのタイミングでの活用や、「1つの手法であって絶対ではない」くらいの感覚が必要かなと思います。