M1グランプリ2024決勝。崩せなかった令和ロマンの牙城、史上初の2連覇。
M1グランプリ20周年の節目となる今大会は、史上初の2連覇、しかも2年連続トップバッターからの優勝という令和ロマンの偉業で幕を閉じた。
1番手が令和ロマン、トップバッターとは思えぬ高揚した空気に見る者を包み込んだ。大きく一新された審査員も、トップバッターであるにも関わらず異例の高得点を付けざるを得なかった。それはそのはず、掴みの「終わらせましょう」から会場を完全に味方に付け、「苗字」というテーマで誰しもに共感を呼ぶネタを披露した。筆者もそのネタの共感力や彼らの堂々とした姿勢に大きく感銘を受けた。個人的な採点は、92点。
2番手はヤーレンズ。令和ロマンの作り出した異様な雰囲気に包まれたままであったこともあり、会場に爆発を起こすことは出来なかった。審査員の採点とコメントも幾分か辛口であった。
個人的な採点は、87点。そもそも去年からあまり筆者には彼らの漫才が嵌っていないのであるが、今年は前提理解があった分、面白さは感じられた。しかし全体として笑いが平坦であったように感じた。
3番手は真空ジェシカ。まさかの今大会3強が1~3番手で登場してしまうという、これまた異例の展開となった。筆者はまさにこの時、今後の大会後半で盛り下がりが起こるのではないかと危惧していた。真空ジェシカは、流石は4年連続ストレートでの決勝進出。一度落ち着いた会場のボルテージを再び最高潮に引き上げ、総合得点は令和ロマンに肉薄する849点で暫定2位に付けた。
個人的な採点は、96点。ネタの軸は商店街という誰しも馴染みのあるもの。前半に残した「コロコロコミック」「おかしな政党」といった説明を後半にかけてしっかり回収していった。ニッチなところを攻めすぎて嵌らないというのが真空ジェシカの失敗パターンであったが、今回は比較的皆に刺さりやすいところを選んで突いてきた。非常に面白かったので高評価。
4番手はマユリカ。敗者復活組。去年の決勝4位であったがために、観客としても受容度は高かったか。ウケはそこそこあったものの、やはり令和ロマンと真空ジェシカには及ばず。そのまま敗退が決まった。
個人的な採点は、89点。敗者復活で見せた「舞子さん」のネタがいまいちだと感じていたため、ネタを変えてきたことは好印象。同窓会で歪なキャラを持つ同級生が現れるという、少し気持ちの悪いマユリカらしいネタで良かったと思う。しかし出てくるキャラの強さで勝負している感があったことと、サンドウィッチ、コーヒー、サラダ、ゆで卵と繋げてモーニングセットとしたのはあまりに予定調和すぎるのでは?と感じたことと、上海ハニーという決して全世代に刺さるとは言いづらいパートに時間をかなり使ったところが惜しく感じた。
5番手はダイタク。何度も準決勝の壁に跳ね返されてのラストイヤー。遂に初決勝となり、芸人やお笑いファンからの大きな期待を背負っての登場となった。披露したネタは、双子であることを活かした比較的分かりやすいネタであり、本人たちも安全解を選択したとのことであった。
個人的な採点は、91点。前半から心を掴まれ、これは令和ロマンを超えるかと思っていたが、後半にかけて見ている筆者が緊張感に苛まれてしまった。というのも、少し拓が噛んだところでまた噛んでしまったらどうしようという気持ちがこちら側に生まれてしまったのだ。審査員の講評の中で、「綺麗すぎた」という言葉が散見されたが、まさしくそれが私の緊張に起因していたと思う。漫才の形として綺麗すぎるが故に、少し噛んだことがその形にひびを入れてしまう恐れを生むのだ。ネタを見ているうちに、ダイタクが見せる漫才の綺麗な形が崩れてしまうのではないかという不安を感じてしまい、それが面白さを少しばかり搔き消してしまったように感じ、令和ロマンの1点下と判断した。
6番手はジョックロック。会場もその少し新たな型に沸いていた。敗退後のコメントにも若手らしいフレッシュさを感じ、今後のバラエティでも呼ばれる機会が増えるのではないかという印象を覚えた。
個人的な採点は、90点。ツッコミの形は新しさもあったが、ネタの中身は一つ一つがシンプルなもの。手数としてももう少し増やせるのではないかという感想。ただ決してボケの質が低いわけではなく、そこにツッコミの新しい動きが合わさり面白さはあったので、色々なネタを見てみたいと思った。
7番手はバッテリィズ。令和ロマン、ヤーレンズ、真空ジェシカと序盤で優勝候補が出尽くし、会場も落ち着きを見せていた中、新たに後半の風穴を開けたのはこのコンビであった。予選を全く見ていない筆者からすると、このまま尻すぼみでファーストラウンドが終わってしまうのでないかと心配していたが、その心配も杞憂で済んだ。会場は大爆発を見せ、審査員も揃って高評価。総合得点は861点と、暫定1位に付けそのファイナルステージ進出はほぼ確実となった。
個人的な採点は、95点。馬鹿キャラが完全に嵌った。どうしてその着眼点が生まれるのかという変な意味で想定外?の連続であった。なんせテンポも良かったので、後半に行くにつれて盛り上がりが更に生まれていった。
8番手はママタルト。やはりバッテリィズの後とは順番が不憫だったか。会場でのウケはいまいちであったように思えた。結果的に最下位になってはしまったが、そのキャラはやはりバラエティでも認められている通り。これから露出がさらに増えることになるであろう。
個人的な採点は、84点。かなり厳しめだがヤーレンズに87点を付けているためこの点数となった。大鶴肥満がこの体型である以上、こうしたネタのテイストにならざるを得ない。彼らがやれる最大限のネタをしたと思うので、改善点があるとは全く思わない。ツッコミもあのままの方が大鶴肥満に張り合えている風に映るので変えないでもらいたい。彼らの選出は、M1というエンタメショーとして完璧な人選だったということである。
9番手はエバース。優勝候補とも目される東京吉本の実力派エース。数々の大会での実績もあり、その噂は筆者の耳にも届いていたが、しっかりネタを見るのは去年の敗者復活戦以来。しゃべくりで聞く側にも集中力の求められるネタであったが、観客のウケは良好。大会に再度うねりを巻き起こすこととなった。審査員の評価も非常に高く、惜しくも真空ジェシカに1点及ばなかったものの、初出場ながら4位に付ける総合得点848点を叩き出した。
個人的な採点は、93点。ネタのテーマも秀逸で、その話芸も達者。二人の素直な会話の中から笑いが生まれるというのはまたまたお見事。令和ロマンとの比較になると考えたが、令和ロマンが少し誇張した会話で何気ないテーマを面白く見せているのに対して、エバースは何気ない会話に見せながら笑いを巻き起こしていることに着目し、1点上と判断した。
10番手はトム・ブラウン。彼らの出順としてはラストバッターというのは最高だったのではないだろうか。最後にすべてを蹴散らす、誰しもがそれを期待した。6年ぶりの決勝登場で、ネタのスタイルは狂気そのもの。今回もウケは良かったように思えたが、審査員の評価は二分。こうした型にあまり評価の高くないと予想された博多大吉こそ95点を付けたが、石田の88点、山内の90点、柴田の87点で万事休す。みちおの石田88点を見た瞬間の切なすぎる表情に、本気でこの大会を取りに来ていたのだなという感情を覚えた。
個人的な採点は94点。全体3番手という点数を付けたのだが、自分でもその感想を言語化することは出来ない。石田が「普通の漫才で笑えなくなった人の救済処置」と例えたが、何か少し筆者にも刺さった。面白かったポイントを部分部分で話すと、猟友会に電話しておきながら鹿の被り物をして撃たれるところ、扇風機とルンバを取り付けるところ、最後にしじみを投入して肝臓を回復させるところが笑ってしまった。とにかく面白い。
結果的にファイナルステージは真空ジェシカ(3位)、令和ロマン(2位)、バッテリィズ(1位)の3組で争うことに。筆者としてはこの時点で令和ロマン連覇の確率は70%あると考えていた。バッテリィズは確かに大きく差を付けて1位に居たものの、平場での笑いがあまりにも取れておらず、こちらの気持ちが少し離れてしまったことが残念だった。またおそらくネタの型を大きく変えられないこともその優勝が霞んで見えた原因であった。
そこで優勝の対抗候補として見えたのが真空ジェシカであった。1本目と変わらぬクオリティのネタを披露すればその優勝がある。そしてその優勝確率は25%。令和ロマンの牙城を崩すのはこのコンビしかいない。それが筆者の素直な見立てであった。
ファイナルステージ1番手は真空ジェシカ。1本目とは大きくスタイルを変えてきたと言えよう。会場のウケはそこそこであったが、正直人を選ぶネタなのか。しかし彼らなりに令和ロマンの連覇を阻むために選んだネタだったのであろうが。
個人的な採点は、89点。先ほどのネタが誰もに刺さるネタであったが、今回のネタはまた少しニッチなところを攻めすぎたか。少なくとも筆者の求めていた方向性とは大きくずれてしまった印象。この時点で令和ロマンの連覇がかなり色濃くなってきたと感じた。
2番手は令和ロマン。これまた1本目とは異なるスタイルで、コント漫才を披露。やはりこのコンビの凄いところは手数の多い点。こちらを休ませる瞬間が1秒たりともなかった。そして、最後のケムリが回転して敵を一蹴する場面には大笑いした。本当に時代劇のドラマを見ているかのような視聴感を得た。何度でも見たい、そう思わせるほど令和ロマンの去年を含めた4本のネタの中で、一番好きなネタだ。観客も大ウケ。令和ロマンの圧倒的な完成度の高さをここに見た。
個人的な採点は、93点。
3番手はバッテリィズ。やはり1本目と同じ馬鹿キャラを活かしたネタ。同じパターンのネタを持ってきたこともあってか、ネタのスタイルを大きく変えてきた真空ジェシカと令和ロマンに搔き消されて、会場のウケはいまいちであったように思えた。
個人的な採点は、88点。やはり厳しかった。特に後半のタージマハルを持ってきた時点でピラミッドの展開は読めてしまったし、その後の大仙古墳も想定内。見ている側が先回りを出来てしまい冷めてしまったというのが正直な感想。ただ1本目は何度見ても面白い。2本目の作り込みが甘かったということだ。
そしてついにファイナルステージの審査。個人的には圧倒的に令和ロマンの優勝であった。実際の結果は令和ロマン5票、バッテリィズ3票、真空ジェシカ1票と、令和ロマンが大会史上初の連覇を決めた。
令和ロマン連覇の最大の要因は、完成度の高いネタを2本用意できたこと。それも2本目の方がより面白いネタを披露できたことにあったと考える。昨年も1本目では3位。2本目でより面白いネタ「町工場」を披露して逆転優勝。今年も1本目で共感性の高いしゃべくり漫才を見せた後に、ドラマ仕立てのコント漫才で爆発。まさしく令和ロマンの勝ちパターンであった。
令和ロマンの牙城は崩されなかった。何より悔しいのは真空ジェシカ。2本目で1本目を上回る、否、それと同程度のネタを披露することが出来れば彼らの優勝であったろう。ただそれはまたそう簡単な事ではない。それだけ令和ロマンの完成度と総合力が高かったということだ。文句なしの連覇。M1グランプリ20周年という節目の大会に花を添える令和ロマンの圧巻劇であった。
昨年から一年の時を経て、再び脚光を浴びた、まさに「リライト」。王者たりながら再び王者になる道中には、こちらには想像しえない困難があったであろう。それを乗り越えての優勝。称える他にないであろう。
*参考資料