呪いの顔と太陽の笑顔
この顔は呪いだ。
あのお方にとって凶事なのだ。
よく「顔を見せて欲しい」と言われる。
そのたびにカゲロウは柔らかく断った。
楽しいものではない、ご期待に添えるものではない、と。
相手が軽く落胆して去っていくたび、彼は茶屋へ目を向ける。
今日も茶屋の看板娘ヨモギが元気よく、里の英雄である『猛き炎』へうさ団子を振る舞っていた。
彼女は覚えていない。
自分があまりに悲しい過去を背負っていることを。
思い出さなくてよいのだ。
カゲロウは小さくため息をつく。
そうなれば彼女の太陽のような微笑みはかげってしまうだろう。
死にかけ、里の皆に救われて以来、里と彼女の笑顔を守ることがカゲロウの生きる意味であった。
しかし。
しかしもしも。
自分のこの顔を彼女が見たとき、封じられた記憶の扉が開いてしまうだろう。
この顔は呪いだ。
あのお方にとって凶事なのだ。
里にかつてないほどの禍群が迫ったとき、カゲロウは覚悟を決めた。
この顔をさらけ出し、里のため禍群を祓い、そして彼女に会うことなく去ろうと。
彼女さえ幸せならば、それでいいのだ。
しかし、『猛き炎』が禍群を打ち払ってくれた。
里のみならず、カゲロウの心も救ってくれた。
(姫みこ様は、今日も笑顔でいらっしゃる)
この顔は呪いだ。
しかし、それでいい。
呪いでいるうちは、彼女の笑顔は太陽なのだから。
「いらっしゃいませ。雑貨屋へようこそ」
カゲロウは『猛き炎』へ微笑んだ。