わんとワンの物語 11
最近ワン1号4号5号が見あたらない。いるのはガンたれ小僧の2号と3号だけだ。そしていつもこの子たちと遊んでたあの男の子もいなくなった。もしかしたらあの子はワンたちの飼主ではなく近所の子で、3匹はあの子に貰われていったんだろうか。
5匹が2匹になり、2号3号はそのぶん思う存分ワン母に甘えている。そしてようやくわんにガンを飛ばさなくなった。
仔犬と遊ぶのに夢中になって、帰りのことなどすっかり忘れていた。くじら浜から龍郷の浜までもどるには、またあのいくつもの岩山を越えなければならない。それに夕刻になると潮が満ちてきて、岩山たちは潮にのまれて帰りみちをふさいでしまうのだ。わんと仔犬が岩山へむかうと、あんのじょう岩は半分以上潮に浸かっていた。わんは滑らないように慎重に岩を越えていく。仔犬は尻尾を振りながら嬉しそうに潮を跳ね、駆けていく。
ここは湾なのでそんなに波は激しくない。でもわんにとってこの岩に打ちよせる波は恐怖でしかなかった。慎重に岩を伝っていたつもりだったが、前を駆けていく仔犬に追いつこうと思わずあせってしまい・・足を踏みはずしてしまった。泳ぎは得意だったはずだけど、気が動転してしまったのだろう、波にのまれ岩に叩きつけられ潮の中にわんは沈んでいった。
たくさん潮を飲んだ
たくさんの潮を飲んで海はわんの中に入ってきた
海はとても大きかった
気がつくと、わんは岩の上で仰向けになっていた。目の前にいる仔犬が懐かしい目でわんを見つめていた。