わんとワンの物語 7
ぼくのはじまりは天から落ちた一滴の雫だった。たくさんの一滴がばらばらに飛び散り、ぼくたちは別れていった。
ぼくは漆黒の闇を落下するだけの雫だった。最初にできたのは「恐怖」という感情だった。ただ落下するだけの恐怖。出口のない恐怖。あいまいな自分を認識できない恐怖。その恐怖は「目」を創りあげた。しかし、その目はさらに恐怖を増長させるものだった。目に見える闇は目に見えない闇よりも深く暗い。どこまでも沈みゆく自分を「目」は静かに見つめていた。
次にできたのが「耳」。静寂もまた恐怖の一部でしかなく、耳は「焦燥」という感情を創った。闇の静寂はカナシミの中にこだましている。カナシミはしかし深くはない。焦燥は「痛み」になった。
その時、雷鳴が轟く。閃光が走る。そして、空気が割れた。それは突然のできごとだった。その光を見た瞬間、ぼくに「イメージ」の感覚が沸いた。最初は色のイメージ。一番目が緑、そして青、赤、の三色。次に営みのイメージ。そこに「高揚」の感情が生まれる。恐怖と焦燥とイメージと高揚が一緒にまざったとき、ぼくの細胞は分裂を始めた。ぼくの細胞が増殖していく。そして、ぼくは一個の個体になった。
空気の裂け目から外へでると、眼下は大海原だった。ゆっくりとぼくは下降する。下降を続けながらぼくはイメージする。「緑」は生い茂る森。「青」は紺碧の空、反射する海。「赤」は燃える太陽、闇を照らす月。
ぼくはイメージを形にして、そのイメージから生まれた小高い丘に降りた。ぼくの名はシニレク。イメージの丘にはアマミコと名乗る者が待っていた。傍らには一匹の犬が佇んでいる。ぼくたちは天とイメージの丘の間に大きな岩を置いた。それがふたりの最初の共同作業だった。
ぼくたちは此処から南へ創造の旅に出る。