わんとワンの物語 4
こんにちは。わたしはワン5号。わたしはカナシミの海から創られました。
わたしはこの宇宙にくるまえは水の宇宙にいました。水の宇宙にはまだ形のないわたしたちが6個ありました。そしてその宇宙の水にはたくさんのキオクが流れていました。わたしが掬いあげたのはヒロシマ、もうひとつはフクシマというキオクです。それを掬いあげた瞬間にわたしの中にカナシミという感情が生まれました。それが最初にわたしにできた感情です。
わたしたち6個はそれぞれが別々のたくさんのキオクを掬いあげました。でもそのキオクはこの水の宇宙を出て向こうの宇宙にいった瞬間に全て忘れてしまい、そこらから生まれた感情だけが残るのだそうです。
この水の宇宙から向こうの宇宙にいくことは、大変なユウキが必要です。なぜならわたしたちには形がないからです。向こう側から呼んでいる母の声を頼りに、真っ暗な水の中をシニモノグルイで進まなければなりません。わたしにはカナシミの感情があるのでそれはとても辛いことでした。
それでもなんとか4個は向こうの宇宙にいくことができました。残っているのはわたしともう1個です。でもその1個はどうしても向こう側へ行くことができません。そうなんです、その1個はヨワイの感情を持ってしまってたのです。わたしは必死にその1個を励ましたりなだめたり叱ったりしながら向こう側に行く勇気を促しました。そしてなんとかその1個も向こうの宇宙に行くことができました。だから最後に水の宇宙からこっちの宇宙にきたのはわたしです。
しかし、わたしがこの宇宙にたどり着いたとき・・その1個はすでに死んでいました。そしてその死んだ1個を見た瞬間に、忘れてしまわなければならない水の宇宙のことや、そこから掬いあげた沢山の悲しい記憶がわたしの中に蘇ったのです。もちろん悲しみの感情もそのままです。
だから、わたしたちは5匹ではなくて本当は6匹なんです。もう1匹は、もう1個は、わたしの中にしっかりと生きています。
あけましておめでとうございます。わたしはワン5号、そして6号です。