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わんとワンの物語 12

「おまえは1号だから一番先に旅立たなければならない」と、ワン父が言った。でもわんはまだこの宇宙にいたいのに。それにあの白い車でいつもやってくるおじさんを待っているのに、あのおじさんは最近あまり来なくなって、あまり好きじゃなかったあのおじさんだけど来なくなるとそれはそれでキになるもんだ。やっぱりわんはあの白い車のおじさんにセンノーされちゃったのだろうか。

わんが「まだ行きたくない」と言うと、「あなたはまた違う宇宙に行って、たくさんの経験をしてくるのよ」とワン母が言った。「ケイケンってなに?」と聞くと、「ケイケンというのは、たくさんの宇宙で生きて、そしておまえの中に眠っているたくさんのキオクを覚醒させることだよ」とワン父が言った。わんは生まれてだいぶたつのでなんとなくわかるようなキがするが、やっぱりわからない。

「カクセイってなに?」
「おまえは水の宇宙でたくさんのキオクを掬ってきた。でもこの宇宙に産まれおちた瞬間に、そのキオクはおまえの小宇宙のカンジョウの海の深いところに沈んで、蓄積されて、眠ってしまったんだ。強い心をつくるにはそのひとつひとつのキオクを目覚めさせ、そしてそれを本当の感情に仕上げなければならない。そのためにはたくさんの宇宙でたくさんのケイケンが必要なんだ」

「カンジョウが感情になったらどうなるの」
「イタイ、カナシイ、ウレシイ、ウラミ、クルシミ、ヨワイ、が、痛い、愛しい、嬉しい、恨み、苦しみ、弱い、になったらあなたには強い心ができるの。その強い心はまたあなたの遺伝子のずっと深いところに沈んでいって蓄積されるのよ」
「たくさんの感情をつくって強い心になって、それをしっかりと遺伝子に溜めていくんだぞ。そしていつかおまえはがワン父になったとき、その強い心のいっぱい蓄積された遺伝子はワン子ワン孫ワン孫孫孫たちに受け継がれていくんだ。わんがおまえを創ったようにね」

「強い心のワンたちが宇宙にたくさんになったらどうなるの」
「そのとき初めてこの宇宙からセンソウもヒトゴロシもビョキも無くなって、本当のウツクシイ宇宙になるのよ」

「ニンゲンはどうなるの」
「ニンゲンはいつまでたっても強い心は造れない。いつまでたっても弱い遺伝子のままなんだ。強くなる努力もしないでケイケンもしないで、本当のカンジョウも造れずろくでもない遺伝子しか遺さない。だからいつまでたってもヒトゴロシばっかりでビョウキにも勝てやしない、ホントにろくでもない連中だ」

あの白いクルマのおじさんもロクデモナイ人なんだろうか。あのロクデモナイおじさんの指をもういちど舐めたかったけど、わんはツヨクなるためにそろそろもうひとつの宇宙に行かなければならないんだ。


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