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丘 @51

県道沿いから脇へ入るとそこは小高い丘になっている。丘といっても道路から少しばかり盛り上がっいるだけで、その1000平米くらいの何にもない丘のすぐ下には砂浜が広がっている。その先に海がある。砂浜と丘の間には緑のアダンが繁り、それがふたつの空間の境界線になっている。左方に曲線をなぞったアダンの先には、森から出でた泉があの海へと繋がる砂の川を成している。

何もない休みの日は決まってこの丘に来る。だいたいが夕方の陽が沈みかける頃だ。


木陰の全くないこの丘を梅雨の合間の太陽が容赦なく照らしている。夕方だというのにまだまだ日射しは強い。濡らしてきたタオルを車のトランクから取り出して車体を洗う。一通り洗うとタオルを絞り車体の水分を拭いていく。新しい絞ったタオルで窓ガラスを磨く。外側が終わると今度は車内を拭いていく。窓ガラスを内側から磨き、ダッシュボードを拭きハンドルを拭き、座席正面のあらゆる機器の埃を払い、4つのドアの内側を磨きあげる。

小さな車なので30分とかからず洗車は終わる。しかし日射しを直接浴びての作業なので、それだけで体中が汗びっしょりになる。乾いたタオルで顔と頭の汗を拭い、Tシャツを脱ぎすて上半身の汗を拭き、そして体の火照りを静かに冷ます。500ml入りのミネラルウォーターを一気に半分ほど飲み干した。タバコを一本だけ吸い、替えに持ってきた真っ白なTシャツに着替えた。

車のドアをすべて開けっ放す。

生まれ変わった車と生まれ変わったぼくを太陽の光が強く射た。

丘から砂浜への段差は2mほどだ。アダンの切れ目から下方の砂浜、波によって削られたその傾斜の断層には、地上にはない目に見えない大木の太い根っ子が3本だけはみ出ている。その3本の中の一番太い根っ子を選び、しっかりと両の手で握りしめながら傾斜を降りていく。決して白くはなく、どちらかといえば灰色に近く広がるその砂浜の先にはもう海しかない。

正面に海、左方に砂の川、右方に巨大な岩山が聳える。砂の川はほんの数日で水路を変え砂を削りながら、でも森から出でた泉を確実にあの海へと導いている。巨大な岩山にはいくつもの蘇鉄が力強く根を張っている。どんな環境にもしっかりと己を主張する蘇鉄は、やはりあの海を望み、硬い岩の内のさらに深く根を下ろしている。遠く故郷はあの海の彼方なのかこの地中深く潜った場所なのか、ぼくにはわからない。でもわずかに盛り上がった丘の下には森から繋がった水があり、潮によって創られた砂があり傾斜があり、それらが月に引っ張られ太陽に射られ、遥か古代に引っ張られ、懐かしい故郷がそこにあった。


砂浜から丘に戻ると太陽は海の彼方に沈んだ。

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新しいぼくは開けっ放しにしていたドアから車中に入り、そしてドアを閉めた。磨かれたハンドルを握り、ぼくはぼくの帰るべき場所へと戻っていく。




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