★極道学園(573)
工藤組は自衛隊との繋がりができたため、シノギがかなり安定してきた。三ヶ月に一回、国から一億円の補助金が出るため漁業の仕事を減らしたのだ。よって漁業の売上に増減があっても全体としては目立たなくなった。
青葉さんと組員たちの関係も良好で、俺は仙台常駐ではなく、週一で仙台に通うことにした。会議の時に俺と青葉さんが並んでいるとやはり組員たちは主に俺を見る。それを避けたい気持ちが強くなった。今後、工藤組は青葉さん中心に回って行くんだよ、と。
仙台行きの手段だが、本当は新幹線が楽だ。しかし駅は狙撃される危険があるため車での移動が多い。毎週開催される栗駒での決闘は必ず視察している。先日は太田が出場し、自衛隊の精鋭を三人殴り倒した。工藤組は連戦連勝である。
宮城の村井知事は自衛隊出身ということもあり国防に関する意識が高く、工藤組の活動を高く評価している。栗駒は国防のための重要拠点という認識が全国的に浸透し、観光客も増えた。
試合で怪我をした者は即座に会場内に用意した診療所に担架で運ばれる。診療所には木村ヨネさんという86歳の女医が常駐していて治療を行う。だいたいは骨折で、次に多いのは顔や腕、足の裂傷である。
武器の使用は禁止、相手に噛み付くのもルール違反である。殴る、蹴る、頭突き、相手を投げ飛ばす、各種の関節技、寝技、首を絞める、以上が攻撃のパタンのすべてだ。工藤組は北海道から連れてきた巨大かつ獰猛なヒグマを相手に訓練する毎日なので人間は小さく、弱く見えると組員たちは述べていた。木村ヨネさんは工藤組にやられた熊たちの治療にも忙しい。
試合が終わるとラクビー同様、レフリーによりNo sideが宣言され敵味方が抱き合って相手の勝利を祝福する。本当はこれらすべてをYouTubeなどで一般公開したいのだが自衛隊の訓練のほとんどは国家機密に該当し、撮影禁止なのである。しかし俺たちは格闘技術研究のため、絶対に映像を第三者に公開しないという条件で撮影が許されている。試合後、それを見ながら組員たちと酒を飲むのである。
太田の鮮やかな連打のシーンが映ると組員たちから感嘆の声があがる。太田が繰り出すパンチ、蹴りは速くて強烈である。ヘッドロックも得意で相手を倒したあと首を絞めると敵は数分で失神する。残念なことにこの太田の役目を青葉さんに期待するのは酷である。激烈な試合を見学しながら青葉さんが「私も強くなって参加したいなあ」と呟いていた。男女平等の理念は広く世の中に浸透したが格闘技の世界における性差は埋めがたいものがある。
宮城は冬を迎えつつありかなり気温が下がってきたが、試合は構わず毎週開催されている。会場近くでストーブが焚かれ、焼き芋をふかしている。試合前にそれを食べ、試合後は炭火で焼いた魚、ストーブで温めた鍋料理を食べ酒を飲みつつ自衛隊員たちと語り合う。
我が国の国防を裏から支えるという大きなミッションを得て工藤組の意気はたいへん高揚した。度々新聞雑誌に工藤組の活躍が報道されるようになり
「俺も宮城に行って戦いたい」と言う千葉の組員たちも出てきた。さて、どうするか。port99内のシノギは建設、造船、飲食、カジノ運営など多岐にわたっているため常に人が足りない。
ポン社長が「アフリカから人を連れてくればいいのでは?」と提案した。相変わらずこの社長はいきなり突飛なことを言う。しかし俺は面白いアイデアだと思った。
さっそく太田がアフリカに行き、体格のよいアフリカ人をたくさん連れてきた。石破首相は彼らに対して速やかに長期滞在ビザを発行した。
栗駒にアフリカ村を作り、百人のアフリカ人を移住させた。日々格闘訓練を行い成績優秀者は試合に参加させる、という流れである。アフリカ人を使って自衛隊員を鍛える。我々のシノギは地球規模になって来たのだなあ、と感慨深い思いであった。
ただしアフリカ人は食糧事情もあり、だいたいは痩せすぎである。視力は良いし身長は高いが痩せている。体重が軽いと蹴りやパンチも弱い。ヘッドロックで敵を倒すのも難しくなる。そのため青葉さんの店でチャンコ鍋を作りアフリカ人を太らせることにした。昼は熊と戦い夜はチャンコ鍋を食べ、アフリカ人たちは徐々に強くなってきた。