★極道学園(553)

俺が再び陸で生活するためには様々な思慮が必要になる。まず、本拠地である上野、ホテル104での生活は諦めないといけない。フロントがある一階は一般人が誰でも出入り自由で狙撃犯かどうか見分けるのが困難だ。

極道学園への出入りも控えたい。セキュリティは比較的厳しいが父兄のふりをして学内に入るのは簡単なのだ。万が一、子供、職員が誤射されたらたいへんだ。

上野駅周辺も人混みが隠れ蓑になり、ターゲットを狙いやすい。電車、バス、新幹線などの公共交通機関はすべてNGだ。

安孫子キャンパスも控えたい。建物がいくつもあり、ライフルで狙い放題だ。安孫子キャンパスは社会人向けの講座もあり、一般市民の出入りが自由なので不審者を見分けるのが困難だ。俺がどのような講義を受けるのか知っているなら、かなり大学というのは狙撃しやすい場所だ。

かつて、山口組の竹中組長が交際相手が住むマンションの入口で暗殺されたが、狙撃犯はちゃんと竹中氏の行動パタンが分かっていたのだ。必ずこのマンションに戻ってくると確信して待ち構えていたのである。

太田は外出時、必ず防弾チョッキを装着し、一般道を歩く時は前に一人、左右に一人ずつ、背後に二人、計五人の若い衆が配置される。毎度毎度これをやるのはたいへんなので太田は防弾ガラスが付いている車での移動が圧倒的に多い。しかし、車の乗り降りをするときは必ず大勢の護衛が必要になる。

そのため太田が住むマンションの地下には太田の車以外、シャッターが開かない特別な駐車場があり、そこから太田と、太田妻のみが使えるエレベーターが設置されているのだ。

俺が陸で活動すると同じように強固な護衛体制が必要になる、というより、太田がそのようにするはずなので俺はしばらく海上生活をしていたほうが組の負担軽減になるのである。俺は組の経費削減のため、海にいる。

狙撃犯が再び俺を狙うためには俺が海のどのあたりにいるのか知る必要がある。九十九里港に係留しているトリトンが俺の舟であることを知っているのは慶子、太田、赤坂など幹部のみで、トリトン二号の存在を知る者もほとんどいない。俺は用心のため九十九里から少しだけ離れた小さな港にトリトン三号を係留している。三号の存在は太田と慶子しか知らない。

俺は海上病院、海上ホテル、トリトン三隻、以上五つの場所を行ったり来たりしているのだ。上記の中で最も警備が緩いのは海上ホテルである。レストランは宿泊客のほか、客の家族や友人知人、ランチを食べに来る一般人など、たくさんの人々が常時乗船しているためかなり危険である。狙い放題だ。なので海上レストランでコイケの料理を食べる時はVIP専用の個室を使うか、部屋まで料理を運んでもらうか、どちらかである。

海上レストランの屋上にはVIP専用のテラス席があり海を一望できる。厨房直結の、料理専用の小さなエレベーターがあり、電話でコイケにオーダーを出すと間もなくエレベーターで料理が運ばれる。この仕組みは俺を守るためにイタハナが考えたことだ。

海上ホテルは複数の船に分散しているため、狙撃犯は俺がどの船に乗っているのか知るのが困難である。

まあこんな感じで、日常的に狙撃のリスクを意識しながら暮らしているわけだ。慶子と二人、護衛なしで都内あちこちを飲み歩き、食べ歩き出来た頃が懐かしい。今は九十九里港から徒歩10分の漱石茶屋にも気軽に行けなくなってしまったのである。清からたまにメールが来るのだが、ひらがなだらけでたいへん読みにくい。(笑)

過去、要人暗殺事件は世界のあちこちで発生した。国内では安倍晋三氏の事件が記憶に新しいところである。あれは背後が全くの無防備状態であり、何故警察があの防御体制を実施したのか、全くの謎だ。元首相ということで、のんびりしていたのかもしれない。

レーガン大統領は1981年3月30日にワシントンD.C.で襲撃された。

【午後2時30分前に会議場での講演を終えたレーガンは、シークレットサービスや警護の警官らとともにT通りの出口から出て、大統領専用車(リンカーン・コンチネンタル)へと向かおうとした際に、警備の隙を見てヒンクリー(犯人)は回転式拳銃(レームRG14 .22LR、いわゆるサタデーナイトスペシャル)から6発全弾発砲した。

銃弾は専用車の車体の隙間を通ってレーガンの左胸部に命中し、他にも

・ジェイムズ・ブレイディ報道官

・ワシントンD.C.首都警察のトマス・デラハンティ巡査

・シークレットサービスのティモシー・マッカーシー特別捜査官

に命中した。ヒンクリーはシークレットサービスや警官に取り押さえられ、逃亡しようともせずその場で身柄を拘束された】

要人を車に乗せるとき、降ろすときは、ちゃんと場所を選ばないと危ない。政治家の場合、たくさんの一般大衆と握手したいという目論見があるため護衛はなかなか大変である。選挙の応援の際は事前にポスターがあちこちに貼られ、誰でも予定が分かるため狙撃犯の良い情報になる。

いいなと思ったら応援しよう!