★極道学園(569)
二人目は地元の大学を卒業し、銀行員になった人だった。融資係からスタートして支店長などをやったあと本店の審査部に異動した。現在は審査部15名の行員を束ねる長である。
長命ヶ丘という仙台市郊外の住宅地に住み、休日は山登りや釣りなどを楽しんでいる。自信たっぷりに銀行での実績を語り続けた。なぜ銀行を辞めたいのかと聞いたら「今や銀行は斜陽産業です。役員に昇進できる見込みもありませんし」と、淡々と語っていた。
人柄については特に問題点を感じなかった。そしてこの人が工藤組のトップになり組を盛り上げている様子を想像してみた。その絵は上手く完成しなかった。それはなぜか。
おそらくこの人の「俺は仙台で一番大きい銀行のエリートなんだぜ」というプライドではないか。彼が組長になったら組員たちと摩擦が起こる可能性があると感じた。
二時間の面接が終わったあと太田と話し合った。
「どう思う?」
「かなり優秀な人ですよね」
「うんうん」
「でも....」
「ん?」
「うちらの業界に合うかどうか」
「だよなー」
結局、工藤組に限らず、俺たち極道は学歴も教養もなく、一般会社員とは異なる生活を長らく続けているのである。突然銀行出身の社長が来て一般のビジネス理論を根拠にあれこれ指示を出したらすぐに組織が疲弊するのではないか。
この社長候補と俺たちの間には埋めるのが困難な、大きな深い溝がある。太田みたいに、宴会になると服を脱ぎはじめフンドシ一丁になって歌い、踊ると組員たちはこの親分には話が通じると思って心を開き、どんなことでも相談するようになるのである。
しかしこのエリート銀行員にそれを望むのは少々酷ではないだろうか。
俺と太田はこの銀行員を不採用にすることにした。
三人目、四人目と面接を続け、最後は青葉さんだった。
身長158cm、痩せ型、女優並の美しさ。長らく国分町でスナックのママをやっていただけあって会話が非常に巧みである。
俺は今回の会社がもともと極道組織であることを初めて説明した。
「はい、知っています」
「え?」
「私も仙台が長いですからね。工藤親分はうちの店に来てくださったこともあるんですよ」
「え!そうなんですか!」
「それに」
「見せろとおっしゃればお見せしますが、私は彫り物を入れています」
「....」
青葉さんは若い頃、店に来た極道と恋仲になり同棲した。そして彼の子供を生んだ。やがて彼は懲役に行き、獄中で病死したのだ、と。
「子供はいま、どうなってるんですか?」と太田が聞いた。
「はい、今は社会人になり結婚して福島で働いています」
青葉さんについてのポイントは、女親分のことを組員たちがどう思うか、である。男尊女卑の考えが著しい業界なのだ。工藤親分の奥さんならまだ理解できる。全くの赤の他人なのにいきなり親分就任となったら組員たちがかなり不満に思うのではないか。
俺と太田は長い時間相談し、青葉さんを副社長として採用することにした。しばらく様子を見て大丈夫そうだったら社長にしよう。
青葉さんは店を閉店し、工藤組に参加することになった。営業最後の日は常連客が多数来て青葉ママとの別れを惜しんだと聞く。ママは大いに儲かった。閉店セール、毎月やろうかしら、と言っていた。(笑)