★極道学園(574)
まさかアフリカと繋がりが出来るとは考えていなかった。毎晩チャンコ鍋を食べて栗駒のアフリカ人たちは体格がどんどん良くなってきた。しかし一軍の試合にはまだ出場できない。自衛隊に負けてしまう可能性があるからである。だから毎日二軍として各種トレーニングを行っている。太田もときおり栗駒に来てアフリカ人たちを指導する。
格闘技すべてそうだが、相手の「気」を読むことが重要だ。ちょっとした身体の動き、目の動きから次の動作を予測して裏をかくのである。
プロ野球で活躍した松坂大輔投手は子供の頃、剣道をやっていた。この体験により打者の「気」を読み取る力が身についたようだ。太田がそのように述べていた。打者の構えを見て「気」を読み取り、裏をかく。
さて、アフリカの話に戻る。
過去、アフリカはヨーロッパ諸国の餌食になり徹底的に搾取された。モンゴル軍がアフリカを狙わなかったのはアフリカが遠いからである。しかし、イギリス、フランス、ドイツ、ポルトガル、スペインなどは皆、アフリカを狙った。
さきほど数えたところ2024年現在でアフリカには50ちょっとの国があるようだが豊かな国は少ない。農業、工業技術が発達しておらず、子供の教育環境も劣悪で貧困に苦しむ人々が多い。中国、日本は比較的積極的にアフリカ投資を行っているがアフリカ隅々まで、というわけにはいかない。
アフリカ経済はなぜ発展しないのだろうか。やはり教育、政治の問題が大きいのかもしれない。
南アフリカのアパルトヘイトも嫌悪すべき史実だ。世界中の人々に激しく批判された政策である。かつて南アフリカの海水浴場の看板には「黒人立ち入り禁止」と、堂々と書いてあったのである。
工藤組は二百人乗りの高速船で漁獲を行いつつアフリカに向かい、決闘に適した血の気盛んなアフリカ人を百人選んで日本に運ぶ。船内では日本語教育のほか、日本人の習慣、文化についての説明、健康診断などを行う。40日かけて日本に戻りつつアフリカ人に教育するのだ。なお、アフリカ人の面接を担当する太田は船ではなく飛行機を用いてアフリカ・日本を往復する。
長い船旅を終えて仙台港に着いたらバス二台で栗駒の演習場に向かう。高速を使えば一時間ぐらいだ。栗駒山麓は景色が良くてロッキーさんも大好きだと述べていた。
毎月40万円貰って半年栗駒に滞在すればアフリカ人たちはみな大金持ちになる。現地では衣服、住居、食事が無償提供されるのでお金が全く必要ないし、大金を持ち帰りアフリカに戻ればしばらくは無収入でも暮らせる。アフリカは物価が安いからだ。貨幣価値が全く違う。日本で稼いできた連中は故郷で英雄扱いされる。
任務が終わり、みな、アフリカに帰るのかと思ったら八割ぐらいのアフリカ人は栗駒に残りたいという。聞いたら工藤組の連中と別れるのが辛いのだ、と。
東北人というのは本当に心が温かい。言葉は通じないが身振り手振りでコミュニケーションをとりアフリカ人たちとすぐに仲良しになる。
格闘技の訓練に加えトウモロコシの栽培を始めた。アフリカ人たちは喜んで農作業をやっている。
日本食に対するアフリカ人の反応は微妙である。白米については特に強い反応を示さなかった。炊きたてご飯を食べても全く美味しそうな顔をしない。彼らは豆とかトウモロコシ、パンを好むのだろう。
納豆についてはまるで悪魔と会ったような反応だった。納豆と卵で丼飯を三杯、五杯と食べる工藤組の連中を、まるで宇宙人を見るかのように呆れ顔で見ていた。あるアフリカ人は、ナットウ、ムリ、ムリと悲しげに述べていた。
彼らの視力については申し分ない。だいたいは視力5.0以上だ。これは戦闘のときにたいへん貴重なのでアフリカ人には読書を禁止し、Audioブックのみ許可した。
毎週の決闘で自衛隊が喜び、栗駒の人口が増えて村井知事が喜び、たくさん稼いだアフリカ人たちが喜ぶ。工藤組の収入も高め安定で推移している。
俺は青葉さんを組長に指名して宮城でのミッションを終えた。
青葉さんが主導する栗駒の居酒屋は座席数が500。極妻数名と一般人のバイト20名、無休で営業している。全国から自衛隊員が来て連日食事をするので営業成績はA++である。
ポン社長は「さすが青葉さん、飲食業のセンスがありますよね」と絶賛していた。この居酒屋ではアフリカ料理も出すのでアフリカ人たちはたいへん喜んでいる。
全国の自衛隊員は栗駒キャンプに参加する資格を得るため以前とは比べものにならないくらい熱意を込めて日々の訓練に参加している。この結果を見て石破首相は「龍神組さんに頼んで、本当に良かった」と涙を浮かべて俺の手を強く握りしめた。