★極道学園(584)
慶子にたびたびゼツボー教団の話をしているが彼女はあまり新興宗教に興味がないようだ。というより慶子は仏教、イスラム教、キリスト教にも興味が薄い。なお、ブードゥ教には興味があるそうだ。なんか、恐い、と。彼女はホラーの映画や小説が大好きなのだ。おそらくスティブン・キングのホラーは全作品を読んでいるはずだ。
さて、俺も全くの無宗教だが、いろんな宗教には興味があり、その歴史や現状を調べるのが好きだ。ユダヤ教とキリスト教の関係とか、キリスト教内での各種分派の経緯など、たいへん面白いと思う。
宗教というか、人間の精神の在り方については多様な考えがあり、どれが正解か、は分からない。
ゼツボー教もジャイナ教からの分派と言える。
仏教はどうか。曹洞宗とか禅宗とか、いろいろある。ちなみに柏の親分の実家は曹洞宗である。
宗教はなぜ分派するのか。
たとえば、なぜキリスト教はカトリックとプロテスタントに分派したのか。
【カトリックとプロテスタントは、権威に対する考え方の違いから、マルティン・ルターの宗教改革をきっかけに分派しました。
カトリックとプロテスタントの違いには、次のようなものがあります。
ローマ教皇の扱いかどうか:
カトリックではローマ教皇を教会のトップとして特別な存在と扱いますが、プロテスタントでは「人間は神様以外みんな同じ」と考えるため特別な存在とは扱いません。
聖職者の呼び方:
カトリックでは「神父」や「司祭」と呼びますが、プロテスタントでは「牧師」と呼びます。
礼拝の呼び方:
カトリックでは「ミサ」を行いますが、プロテスタントでは「礼拝」をします。
礼拝堂の雰囲気:
カトリックの礼拝堂は装飾品が多いのに対して、プロテスタント教会は簡素感があります。
十字架の表現:
カトリックの十字架にはイエス像が付いているのに対し、プロテスタントは十字架のみです。
プロテスタントは、聖書の権威を重んじ、個々人の信仰に対する直接的なアプローチを奨励します】(Google社が開発したAIによる説明)
これを読むと俺はどちらかと言えばプロテスタントに親近感を覚える。カトリックのような、縛りが多い宗教は苦手なのだ。いったん結婚したら離婚は絶対に禁止、なんて、頭がおかしいのではないか。(笑)
内村鑑三は無教会主義を唱えたが彼の考えはプロテスタントに近い、とダニエル先生は述べていた。彼は敬虔なクリスチャンである。
ゼツボー教の特徴は柔軟性であり、ルールはときおり変わる。そして戒律はイシノリ教祖の一存で決まる。肉、魚は自由に食べていいよ、とか、着衣もOKだよ、とか。今月は肉食をなるべく控えようぜ、とか。最近はジャガ芋も解禁された。なお、本家ジャイナ教はジャガ芋禁止である。ジャガ芋を掘るとき虫を殺してしまう可能性があるからだ。
修業についてもお坊さんみたいな、苦行的な、激しい内容ではなく、施設内の清掃をマメにやるとか、その程度である。ただし微生物を殺さないため、殺虫剤などの使用は禁止されている。とにかく人間以外の生物を守ることに熱心な宗教である。
俺は月額五十万円でゼツボー教団の賛助会員になることにした。賛助会員は、イシノリ教祖の説法を聞くことはできないが、ゴゲンにはいつでも会えるし、施設内を自由に歩き回ったりたくさんの信者たちと交流することもできる。彼らが作った良質な野菜を非常に安く買うこともできるのだ。
彼らは所有の排除を生活目標にしているため、衣服、車などはすべてレンタルである。なんと、肉体自体も天から借りているものだ、という考えなのだ。そのため自殺は厳禁である。天から借りた肉体を勝手に処分するのは重罪ですよ、と。
ゼツボー教。
全く面白い宗教だ。俺は取材結果をまとめ「絶望への道」という本を書いて教団に寄付した。ゴゲンがたいへん喜び「たいへん正確な内容です。これを売ってください。教団でも新人研修でこの本を使います」と言った。
俺は紅林警部に依頼し、ポン出版経由でこの本をAmazonで売った。そうしたら二十万部売れた。一冊二千円で俺の印税は四千万であった。俺は半分を教団に寄付して残り半分でポン社長の会社の株を買った。