★国語教師(74)
父の息子の茶太郎は高校一年生になり都内の私立高に入りました。さっそくサッカー部に入部したのですが彼の学校は部員百人の強豪高校なんですよね。レギュラーは無理じゃないかと父が言ってましたよ。高校三年間で一度も試合に出場できない部員がたくさんいるのです。なんだか茶太郎が気の毒です。
うちの学校は野球部やサッカー部がありません。でもバスケットボール、バレー部はあります。大会があるとだいたい三回戦ぐらいで敗退してますね。決して弱くはないんですけど関東にはバスケット、バレーが強い高校がたくさんあるんですよ。
経営戦略的な話になりますが運動部を強くして学校の知名度を上げ、生徒(選手)をたくさん集める、というやり方で成長した私立高はたくさんあります。東北では青森山田高校が典型的な例ですね。宮城の仙台育英は野球で有名です。関西では大阪桐蔭でしょうか。PL学園も甲子園の常連でしたが内部的な問題で野球部が崩壊しました。
神奈川だと横浜高校ですかね。たくさんのプロ野球選手を輩出しています。この学校の校名を聞くと、公立?と勘違いする人がたくさんいますが、実はこの高校は私立なんです。野球で一躍有名になりましたね。甲子園に出て試合に勝つたび校歌が全国放送され、新聞雑誌には横浜、横浜と出るわけです。これはものすごい宣伝効果だと思いますね。
一方、うちの学校の知名度は非常に低いです。卒業生で有名になった人はほとんどいませんし。東大京大に行く生徒もいません。マスメディアに取り上げられることがほとんどない学校なんです。
今後日本は出生率が大幅に向上する気配が全くありませんので大半の私立高は生徒募集に苦労すると思いますね。阿部校長や湯川先生の、日常的な頭痛の種になっているんじゃないでしょうか。
僕は経営側の人間ではないし、仕事は五人の息子を育てる手段と割り切っていますので仮にうちが閉校になっても特に落ち込むことなく、淡々と次の仕事探しをすると思います。
昨晩はゆかり先生と高円寺の沖縄料理店へ行き雑談を楽しみました。先生は相変わらず有給休暇をフル活用して沖縄の海に行っています。海中で泳いでいるとまるで自分が魚になったかのような自由を感じるそうです。
先生が水中カメラで撮影した写真、動画をスマホで見せてもらいましたがホントに綺麗です。先生はこうやって自然との触れ合いを大事にしつつ都会で暮らしているのです。
帰り道はいつものように僕の腕に自分の腕を絡ませ、まるで恋人同士のように寄り添い、駅に向かいます。毎回、「生徒や父兄に見付かったらたいへんですよ」と言うのですが「その時は記者会見を開いて不倫を大々的に発表しよう!」と先生は言います。大胆と言えばいいのか少々の狂気と言えばいいのか。でも僕はそんなゆかり先生が大好きです。
生徒たちは保健室に来て家庭内の悩み、恋の悩み、勉強の悩みなどをゆかり先生に話します。先生はそれらの生徒一人一人に対してとても丁寧に接しています。もともと対人関係が不得意な僕には絶対にできないことです。だから僕は先生を深く尊敬しています。