★極道学園(395)
「1973年のピンボール」では謎の双子が出てきて208、209とプリントされたTシャツを着る。これ、どんな意味?
昭和20年8月は終戦で、9月はその一ヶ月後。だから208、209は日本の終戦時期をイメージさせる仕掛け、つまりメタファーなんだと、青空食堂でたまに見かけるおっさんが断言していた。ホントかよ?
このおっさんは昔新聞社に勤務していて村上春樹のインタビューを何度も担当していたようだ。村上作品は全部読んでいると言う。さらには村上作品を解説した本も数冊書いたようだ。よほど村上春樹が好きなのだろう。
さて、208&209だが、俺もこの数字ってなあに?何か意味があるの?とは思っていたが、このおっさんの説明を聞いてなるほどと思った。そこに気付いたあなた、すごいよね、と。
村上春樹の作品にはこのような、クイズみたいなものがたくさん挿入されている。村上春樹は小さな謎の挿入が大好きなのだ。まるでメタファー・マニアだ。
本人が自分の提示したメタファーについて決して正解を言わないため読者は自由奔放にあれこれ推理できるのである。村上春樹というのは本当にサービス精神旺盛な作家だ。そのため世界中にファンがたくさんいるのだろう。
おっさんは村上春樹を一冊も読んだことがない青空食堂の店主相手に村上春樹論を延々と二時間語り、焼酎を五杯飲んでフラフラ泳ぐように帰る。屋台村の近くにあるアパート「清流荘」に住んでいるようだ。家賃が安く、常に満室だ。屋台村の店主たちも多数住んでいる。
清流荘はサンチョウさんが低所得層を助けるためにボランティアで作った巨大な長屋だ。もちろん建築は俺たち龍神組が請け負った。予算の関係で安い材料で建てたため、大地震が発生するとたくさん死ぬかも。(笑)
おっさんは最近、ムラカメ春樹に注目しているようだ。最初は面白くなかったが段々面白くなってきたと述べる。夏目漱石の作品の続編という縛りがありながらよくあそこまで書けるものだと感心していた。
彼はまさか自分がいま食べている亀肉を届けたのはムラカメだと生涯気付くまい。(笑)
今日は仙台から赤坂が来て俺と太田に工藤組の状況を説明する。太田と相談し、赤坂の説明が終わったら本人に二百万ボーナスを渡すことに決めた。赤坂はかなりがんばったので当然の報酬だ。
赤坂は親会社から派遣された役員みたいな立場だが工藤組の中で赤坂に反抗する組員は一人もいないそうだ。これは赤坂の人柄ではないだろうか。柔らかい支配という言葉が浮かんだ。