★国語教師(70)
伊那小学校は教育界、地域などあらゆる方面から高い評価を得ているわけではありません。読み書き計算に重点を置いた教育をしていないせいなのか、平均的にみて他校より生徒の学力が低いのでは?中学で勉強に苦労するのでは?と親が危惧する例もあると聞きました。
実際、伊那小学校に子供を入れたくないという親もいるそうです。この事実を見るに、学校というのは親の価値観により180度違う評価をされることもあるんだな、と思いました。
中学で牛、ヤギを育てるスキルを問われることはありません。高校入試で「ヤギの飼育のポイントは?」などという問題は出ません。結局、伊那小学校で得た知識、経験って、なんの役に立つの?
もし伊那小学校を卒業した生徒の大半が東大に進学した、ということになれば世の中はかなりどよめくでしょうね。
結局、世の人々が学校の価値を計るモノサシって、八割方は偏差値、つまり、「どの程度勉強が出来るか」ではないでしょうか。
灘、開成、麻布は「東大に合格した生徒の数」というモノサシにより世間から高く評価されます。開成は生徒数が多いため、学年の人数に対する合格者の割合を計算し、その割合で言えば開成より筑駒が上だ、と主張する週刊誌もあります。四人に一人が東大、よりも、三人に一人が東大、のほうが優秀だろう、と。実にくだらないです。
埼玉の県立浦和高校は東大合格者が多いということで子息を東大に入れたいたくさんの家族が浦和に引っ越しをしており、地元のマンション業者はウハウハ状態なんですよ。安い授業料で東大に行ける(可能性のある)高校という評価ですね。いわゆる、コスパですよね。
スポーツというモノサシもありますよね。サッカーで上を目指したいなら帝京、とか。ラグビーなら大阪桐蔭とか。医学部に大量の合格者を出す女子校もあります。
うちの高校は勉強でもスポーツでも有名ではないので「その他の高校」に分類されると思います。(笑)
伊那小学校は「自由にのびのびと子供を育てる」というコンセプトが一部の父兄にウケていて、各種メディアにより評判が日本中に広まり、伊那市に移住する家族までいるわけです。
この「自由、のびのび」という部分が伊那小学校とうちの共通点ですね。校則はありますし、石上先生みたいな規則にうるさい教師もいますけど大半の先生はおおらかというか、「まあ、自分で考えて自由にやってみろよ」という感じですかね。いわゆる、受験戦争とは無縁なのでギスギス、ギラギラした感じはありません。
父兄会の会長は土建屋のおじさんで体罰賛成、僕たち教師には「うちの息子は馬鹿だからバンバン殴ってください」としょっちゅう言います。息子さん、可哀相。。(笑)
高校は大学に行くための予備校だ、と考えているに違いない学校もありますよね。難関大学に何人合格したか、で自校の評価が決まると固く信じている大人たちがやっている学校です。その高校を目指す子供、親たちにPRを行うため、窓に○○高校に何人合格した、と自慢げな貼り紙をする塾もたくさんあります。
山形の高校では昔、学年二位の成績の子が一位の生徒を刺殺するという事件が起きて大騒ぎになったらしいですよ。これは湯川先生から聞いた話です。全く、狂ってますよね。
我が子を高収入な人に育成したい、社会から高い評価を受ける大人に育てたいと強く願う親たちが世の中にたくさんいるのです。医者弁護士公認会計士高級官僚大企業勤務。それらの職に我が家の子供が就いたら万歳だ、と。
我が家の五人の息子については自分が願う世界を熱心に目指して欲しいと思うだけで、それが犯罪者の世界でない限りはとことん応援したいです。もし息子たちの学費が足りなければ僕は大嫌いな予備校講師のバイトもやりますよ。
うちの学校を退職した先輩が都内で予備校の講師をやってまして、いろんな話を聞いているんですが、僕はできれば予備校では教えたくない。しかし、息子たちのためなら、なんでもやります。
睦美に「もし僕が死んだらどうする?」と聞いたら「歌舞伎町の熟女倶楽部でバイトする」と言ってました。夫婦共々、覚悟はできてます。(笑)
開成高校の校章には刀とペンが描かれています。刀は武力、ペンは知力を表していると思いますが、これは文武両道という意味なんですかね。開成出身者をたくさん知っている睦美に聞いたら「いや、違う、ペンは剣に勝る」という意味だそうです。三島由紀夫が聞いたら泣くでしょうね。(笑)