片頭痛の新しい薬:CGRP関連抗体製剤って何?
片頭痛の治療薬はこの2年で大きく変わりました。そのうちの一つであるCGRP関連抗体製剤についてまとめたいと思います。
CGRP:calcitonin gene-related peptide(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)
このCGRPを説明する前に、片頭痛の機序の変遷について紹介します。
①血管説:頭蓋内外血管の拡張によりその血管のまわりの神経が活性化して、頭痛になる説であり、急性期治療薬であるトリプタン製剤はこの機序に基づいて開発されました。
しかし、画像検査(MRA:MR Angiography)による研究からは片頭痛発作時に髄膜血管に拡張を認めないことが明らかになったため、否定的な知見も出ています。
②皮質拡延性抑制(CSD)説:片頭痛の発作前にみられる視覚性前兆(キラキラ・ギザギザしたものが見える閃輝暗点)の際に、大脳皮質刺激部位から同心円状に3mm/分程度の速度で拡がる脳波抑制を発見しました。最新の脳機能画像検査でもCSDと視覚性前兆の関係が明らかになっています。
しかし前兆のある片頭痛は全体の1/3程度であり、CSDのみですべての片頭痛のメカニズムを説明するのは困難です。
③三叉神経血管説:①②の組み合わせのような説であり、後述します。現在は三叉神経血管説が有力視されています。
三叉神経血管説は少々複雑なのですが、ここにCGRPが登場します。
①(前兆があるときは)皮質拡延性抑制が大脳に生じて前兆を来します。
②天気・月経といった何らかの刺激が硬膜血管周囲の三叉神経系に作用します。
③CGRPといった物質が放出されて④血管拡張⑤血漿蛋白漏出といった神経原性炎症を引き起こします。
現在このCGRPを標的として治療すれば片頭痛発作の予防になるのではないかと考えられ、治療薬が開発されました。
その後神経活動が伝導し、順行性伝導は⑦三叉神経脊髄路核⑧視床を通じて大脳皮質へ伝え、「痛み」として認識されます。
逆行性伝導ではさらにCGRP等の物質の遊離を促進し、血管拡張・炎症を助長させます。
片頭痛は急性期治療も大事なのですが、それよりも予防が大事です。
予防療法についてまとめました。
片頭痛の予防療法には大きく既存の内服薬と今回説明する抗CGRP関連抗体製剤があります。まずは既存内服薬を1-2種類、数か月用いても片頭痛発作回数が減らない場合に抗CGRP抗体関連製剤を考慮します。
CGRP関連抗体製剤については下記にまとめました。
CGRP関連抗体製剤は3種類上市されており、大きくはCGRPに直接作用する2製剤とCGRP受容体交代に作用する1製剤に分類されてます。概ね1か月に1本の皮下注射であり、薬価は3割負担で13000円前後と高価になっております。
本製剤のメリット・デメリットをまとめました。
メリットとしては投与3か月程度で効果が発揮され(投与1か月でも頭痛日数を約半数に減らす、8割以上で高い効果など)、難治症例にも効果がないこと、血液脳関門を通過しないため、中枢神経系への影響がほぼ皆無であることが挙げられます。
デメリットとしては何といっても値段が高いことと本邦における長期の安全性については不透明であり、いつ辞めたらいいかもわからないことが挙げられます。
私見ですが、まず3か月は本製剤を使ってみて、まったく効果が得られない場合にはブランドチェンジを行います(ガルカネズマブで開始したならばエレヌマブに、など)。6か月用いてみても有効なら継続し、患者さんの希望も鑑みながら12か月までに中止の時期を検討します。再燃の場合は再度導入します。
以上が片頭痛の新規予防薬であるCGRP関連抗体製剤のお話でした。
難しい内容もありますが、片頭痛でお悩みの方はお近くの神経系専門医や頭痛専門医へご相談いただければ幸いです。
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