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医療DXが「未病」の在り方を変える、遠隔医療学会学術大会2021――Dr. 心拍の「デジタルヘルスUPDATE」(23)

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医療DXが「未病」の在り方を変える、遠隔医療学会学術大会2021――Dr. 呼坂の「デジタルヘルスUPDATE」(23) | m3.com AI Lab

呼吸器診療が専門の総合病院で勤務しつつ、ヘルスケアビジネスにも取り組むDr.心拍氏を中心とするチームが、日々のデジタルヘルスニュースを解説します。

Dr.心拍が第25回遠隔医療学会学術大会(JTTA 2021 GIFU)のプログラムの中から興味深い演題についてダイジェスト版をお届けしています。(第1回第2回

今回は学会長である鳥取大学医学部附属病院医療情報部教授の近藤博史氏による学会長講演「日本と世界の医療DX」についてご紹介します。最初に、「マイナンバーカードのコンセプトはセキュリティ上大丈夫なのか?」というチャレンジングな話題から入りました。

「データの統合集中は危険か、安全か?」という議論において、国に統合データを作られると漏洩の危険があるのではないかという意見があります。情報セキュリティにおける機密性、安全性、可用性を考慮すると、データを分散して保管すると漏洩の危険が増します。データを統合し、アクセス管理を徹底し、アクセスログを本人に開示し、臨床データの処理結果のみアクセスできるようにすれば、個々のデータには直接行えない設定も可能となります。このような方法により医療ビッグデータを用いた研究も可能となるでしょう。

DXにより多数のシステム間連携が実現されると、さまざまな情報から有益なものを抽出するデータマイニングが可能となり、新しいEBM(Evidence based Medicine:根拠に基づいた医療)が実現するかもしれません。

モバイルヘルスで未病対策に取り組む動き

書店とレコード店がデジタル書籍や音楽配信に取って代わられたように、医療の仕組みもDXによって変わっていくのでしょうか。現在、遠隔医療では、感染症や生活習慣病、がんといった幅広い疾患も対象となっています。

生活習慣病ではさまざまなモバイルヘルス(モバイル端末やウエアラブルデバイスを用いて行う医療サービス)が台頭してきています。モバイル端末を用いる事で、日常データの収集が容易になるだけでなく、有病時の効率化や迅速対応も可能となり、よりエビデンスに基づいた医療が行えるようになります。

また、生活習慣病では発症前の対策が重要です。最近ではこの「未病」に取り組もうとさまざまなスタートアップ企業が開発に取り組んでいます。私たち医師も、発症後に診察を行うという医療だけでなく、未病への対策という視点も常にもちながら医療に取り組んでいく必要があると感じています。

コロナ禍で有効なオンライン診療

米国や欧州は病院医療の崩壊によりクラスターが当初より発生しましたが、国内では日本独自の保健所システムにより隔離が上手く機能したことで、それほどクラスターは多く発生しませんでした。しかしながら、呼吸器疾患や腎機能障害、糖尿病、免疫低下患者、高齢者には初期から医療の介入が必要であり、日本遠隔医療学会はオンライン診療の適応拡大を提言しました。海外のオンライン診療は対面と同じ報酬であるのに対し、国内では電話再診と同じく80%程度の報酬となりました。

オンライン診療の普及により、専門外来のオンライン診療への期待も膨らんでいます。パーキンソン病など移動困難患者への対応も容易になりますし、感染対策として非接触診療や患者の精神状況を考慮した非対面診療、遠隔リハビリのような日常生活の場所での診療の有効性が挙げられます。脳卒中診療における遠隔医療(Telestroke)に関しては、日本脳卒中学会によるガイドラインにも記載されています[1]。

また、ビデオの画質が向上したことで、肩で呼吸している場合や頻呼吸などの病状が把握できるようになりました。加えて、AIを利用することで、顔の映像からバイタルサインを計測したり、歩き方の映像から四肢の痛みや神経疾患を判定したり、音声から怒りや信頼度、呼吸数などを捉えたりすることができるようになっています。

さらに、患者や支援者(家族、看護師、医師)が操作する検査機器の利用により、耳鏡や鼻鏡、眼底鏡、聴診器、超音波を用いた診察や検査が可能となります。また医療DXの一部としてモバイルヘルスも有用となります。モバイル端末を用いることで、症状変化の記録やバイタルサイン、睡眠やストレスなどのモニタリングが可能となります。

今回、日本と世界の医療DXということで、国内と海外での事情も踏まえた情報や今後の展望について伺いました。本講演は、今後どのように医療DXを推進していけばよいのか、どのようなことが課題で、どのようなことが現実的に行えるのかというような実践的な内容でした。明日から大きく医療を変えることは難しいのかもしれませんが、少しずつ着実に技術を進歩させ、工夫を重ねて、より良い医療を提供できるように医療DXを進めていきたいですね。

【参考】
[1] 脳卒中診療における 遠隔医療(Telestroke)ガイドライン

【著者プロフィール】
Dr.心拍 解析・文 (Twitter: @dr_shinpaku)
https://twitter.com/dr_shinpaku
呼吸器内科の勤務医として喘息やCOPD、肺がんから感染症まで地域の基幹病院で幅広く診療している。最近は、医師の働き方改革という名ばかりの施策に不安を抱え、多様化する医師のキャリア形成に関する発信と活動を行っている。また、運営側として関わる一般社団法人 正しい知識を広める会 (tadashiiiryou.or.jp)の医師200名と連携しながら、臨床現場の知見や課題感を生かしてヘルスケアビジネスに取り組んでいる。
各種医療メディアで本業知見を生かした企画立案および連載記事の執筆を行うだけでなく、医療アプリ監修やAI画像診断アドバイザーも行う。また、ヘルステック関連スタートアップ企業に対する事業提案などのコンサル業務を複数行い、事業を一緒に考えて歩むことを活動目的としている。

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