胸水貯留をみたら 最初に行うこと

まずは大原則。
「新しい胸水を見つけたら、原則穿刺する」
穿刺を行わない状況は、「胸水の量が少なすぎて穿刺できない」ときと「明らかに心不全の患者の両側胸水」くらいでしょうか。

抗菌薬投与など、胸水の性状を修飾しうる介入を行う前に、必ず穿刺しましょう
先に抗菌薬が入ってしまったら、もう診断は闇の中です。あとから穿刺しても、もともと細菌がいなかったのか、抗菌薬で消えてしまったのか、分かりません。
「全ての腔水は穿刺する」というのは金言です。


・胸水の性状による分類
ご存知のように滲出性か、漏出性か、というのがスタートになります。

一番有名なのがLightの基準ですね。

1. Lightの基準:次の3つのうち1つ以上を満たせば滲出性【感度98%・特異度83%】
・胸水LDH*A>血清LDH正常上限の2/3【82%・89%】
・胸水/血清総蛋白比>0.5【86%・84%】
・胸水/血清LDH比>0.6【90%・82%】
2. 胸水総蛋白≧3g/dLなら滲出性【90%・90%】
3. 胸水コレステロール
・>60mg/dLなら滲出性【54%・92%】
・>43mg/dLなら滲出性【75%・80%】
4. 胸水/血清コレステロール比>0.3なら滲出性【89%・81%】
5. 血清−胸水蛋白*B≧3.1g/dLなら滲出性【87%・92%】

*A 赤血球溶解による乳酸脱水素酵素(LDH)上昇に対する補正=測定されたLDH−0.0012×赤血球数/μL
*B 胸水の発生後に利尿薬を処方された患者が、Lightの滲出性基準を満たす場合に選択される検査

Light RW. Clinical practice. Pleural effusion.
N Engl J Med 2002 ; 346 : 1971–7. PMID : 12075059


注意点として、Lightの基準は滲出性胸水への感度は高いが、特異度はやや低いということがあります。
つまり、Lightの基準を満たさなければほぼ間違いなく漏出性と言えますが、Lightの基準で滲出性と診断されても、実は漏出性胸水ということがあり得ます。
特に、利尿薬使用などで漏出性胸水が「濃縮」されているときに偽陽性(偽滲出性胸水)が起こるようです。
この可能性を考えた時には、より特異度の高いTP gradient(3.1 g/dL以上であれば心不全ではないか)もしくはAlb gradient(1.2 g/dL以上であれば心不全ではないか)を使用します。


・ドレナージが必要な胸水とは?
肺への細菌感染に伴う胸水では、治癒のために抗菌薬投与だけでなくドレナージが必要となることがあります。
ドレナージの必要性を判断する基準としては「Lightの分類」と「ACCP分類」が有名なようです。

Light の分類
・クラス 1 有意でない肺炎随伴性胸水
 胸水は少量(臥位X線で10 mm未満の厚さ)
 胸腔穿刺は推奨されない

・クラス2 典型的肺炎随伴性胸水
 X線で10 mm以上の厚さ
 胸水中の糖>40 mg/dL、pH>7.2
 グラム染色と培養が陰性
 抗菌薬加療

・クラス3 境界型複雑性肺炎随伴性胸水
 胸水pH 7.0~7.2 and/or LDH>1,000~3,000 IU/L
 糖>40 mg/dL
 グラム染色と培養が陰性
 抗菌薬加療+胸水穿刺

・クラス4 通常複雑性肺炎随伴性胸水
 胸水pH<7.0 and/or 糖<40mg/dL
 グラム染色か培養が陽性
 被包化胸水ではなく、明らかな膿性でもない
 抗菌薬加療+ドレナージ

・クラス5 高度複雑性肺炎随伴性胸水
 胸水pH<7.0 and/or 糖<40 mg/dL
 グラム染色か培養が陽性
 多房性の胸水
 抗菌薬加療+ドレナージ+線維素溶解療法

・クラス6 単純性膿胸
 明らかに膿性
 単房性か、流動性のある胸水
 抗菌薬加療+ドレナージ ± 外科的剥皮術

・クラス7 複雑性膿胸
 明らかに膿性
 多房性の胸水
 抗菌薬加療+ドレナージ、胸腔鏡もしくは外科的剥皮術

Light RW.
A new classification of parapneumonic effusions and empyema.
Chest 1995; 108: 299–301


ACCP 分類
・カテゴリー 1
定義:胸水は胸腔穿刺不可能なごく少量(10 mm 未満)のため、胸水結果不明
予後不良リスク:very low
ドレナージの必要性:不要

・カテゴリー2
定義:胸水は少量〜中等量(10 mm 以上であるが胸郭の半分を超えない)かつ  pH≧7.2 かつ 胸水の微生物検査で塗抹・培養ともに陰性
予後不良リスク:low
ドレナージの必要性:不要

・カテゴリー3
定義:胸水は大量(胸郭の半分を超える)。多房性で胸膜肥厚を伴う胸水、もしくは胸水 pH<7.2、もしくは胸水の微生物検査で塗抹 and/or 培養が陽性
予後不良リスク:moderate
ドレナージの必要性:必要

・カテゴリー4
定義:胸水が膿性
予後不良リスク:high
ドレナージの必要性:必要

Koegelenberg CF, et al.
Parapneumonic pleural effusion and empyema.
Respiration 2008; 75: 241–50


Lightの基準のほうが細かいですが、共通しているのは、
ドレナージしなくてよい胸水(単純な肺炎随伴性胸水)は、「胸水pH≥7.2」かつ「胸水グラム染色/培養陰性」であるということです。
逆に、「胸水pH<7.2」かつ/または「胸水グラム染色/培養陽性」のときはドレナージを考えます。


・結核性胸膜炎
「胸水中に直接結核菌が証明されない ≠ 結核性胸膜炎の否定」ということを知っておきましょう(これは腹膜炎でも、髄膜炎でも同じです)
ADAなどを参考にしたり、時には胸腔鏡による胸膜生検も行います。


最後に、胸水を穿刺した際に提出する項目についてまとめておきます。
①TP、LDH、(利尿薬使用がある場合はAlb):漏出性と滲出性の区別のため
②pH、糖:ドレナージ要否を判断するため
③細胞数、細胞分類
④グラム染色、一般細菌培養
⑤抗酸菌染色、抗酸菌培養、結核菌PCR
⑥ADA:結核性胸膜炎診断の参考
⑦細胞診、セルブロック
⑧腫瘍マーカー
漏出性なら原則として追加の検査はいらないわけなので、検査費用の節約を追求するなら①だけ提出してもよいのですが、穿刺には手間と一定の侵襲および合併症リスクがあるので、何度も穿刺するのも避けたいところです。
個人的には、漏出性だと思うけど念のため確認、というときでも①~④まではルーチンで提出、多分滲出性だろうと思って穿刺するときには①~⑦まで、⑧はオプション、というようにやっています。保存しておくのもよいですね。


McGrath EE, Anderson PB. Diagnosis of pleural effusion: a systematic approach. Am J Crit Care. 2011 Mar;20(2):119-27; quiz 128.  PMID: 21362716
Saguil A, Wyrick K, Hallgren J. Diagnostic approach to pleural effusion. Am Fam Physician. 2014 Jul 15;90(2):99-104. PMID: 25077579.

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