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高血糖緊急症へのアプローチ

厚生労働省が行う患者調査では現在治療を受ける糖尿病患者数は573万 人と言われています。糖尿病が背景にある緊急疾患として、高血糖緊急症があります。倦怠感や腹痛、意識障害などの非特異的な症状で受診し、血糖値を測定することで診断につながります。適切な治療を行っても死亡率が10 %前後であり、早期に適切な治療を行うことが重要です。
今回は高血糖緊急性に関してまとめてみました。


高血糖緊急症の定義

高血糖緊急症は糖尿病における重大な合併症の一つです。主に糖尿病性ケトアシドーシス(DKA:diabetic ketoacidosis)と高浸透圧高血糖状態(HHS:hyperosmolar hyperglycemic state)を指して言われます。
DKAは、糖尿病患者が感染症などに罹患することで摂食できなくなり、インスリンを中断・減量することで発症します。未診断の1型糖尿病患者や糖質を大量に摂取した2型糖尿病患者でもみられます。後者は俗に「ソフトドリンクケトーシス」「ペットボトル症候群」とも言われます。
HHSは、2型糖尿病患者が感染症や脳卒中を発症を契機に、インスリン抵抗性が増し(よりインスリンが必要となる)発症します。高齢者に多く発症するとされています。DKAと比較し派手な症状がなく進行するため、発見が遅れやすく進行した状態でよく診断されます。そのため予後が悪く、死亡率が10-20%ほどとされています(DKAは1%ほど)。

高血糖緊急性の診断

DKAでは高血糖のために口渇やそれを補うための多飲、倦怠感を訴えます。
またDKAでは傷病名にある通り、ケトアシドーシスをきたします。これにより消化管の蠕動運動が低下し、悪心/嘔吐、腹痛をきたすことがあります
DKAの病態は大まかには以下のとおりです。
 ①インスリンの欠乏
 ②血中に糖質はあるが細胞内にないため枯渇
 ③脂肪分解し脂質を代替エネルギーとする
 ④この際にケトン体が産生、それが蓄積しケトアシドーシスとなる
DKAでは高血糖(300 mg/dL前後)、代謝性アシドーシス(HCO3-<18 mEq/L)、体内のケトン体増加が診断の鍵となります。
尿中ケトン体検査は多くの症例で陽性になりますが、陰性であってもDKAは否定できません。これは尿中ケトン体検査はケトン体のうちアセト酢酸を検出していますが、DKAではβ-ヒドロキシ酢酸が多く産生されるためです。尿中だけでなく血中ケトン体測定をしておいたほうがよいでしょう。

HHSではDKA同様に倦怠感や悪心/嘔吐を呈しますが、特異的な症状がありません。先述の通りHHSでは、肺炎や脳卒中などの誘引となる疾患があるため、その症状で受診することも多いです。
HHSの病態は大まかに以下の通りです。
 ①感染症や脳卒中など誘引となる疾患に罹患→インスリン抵抗性が増加
 ②インスリンが相対的に欠乏し、高血糖となる
 ③高血糖に伴う浸透圧利尿で尿中から水分/電解質を喪失
 ④血中内は脱水になり、浸透圧が上昇=高浸透圧高血糖状態
HHSでは目立った症状がなく受診までに時間を要します。そのため検査値はDKAよりも基準値から逸脱する傾向にあります(血糖>600 mg/dL、浸透圧>320 mOsm/L)。
HHSでは相対的にインスリンが少ないものの存在はしているため、脂肪酸分解はDKAよりは進まずケトアシドーシスは通常見られません。

誘引となる疾患

発症誘引となる疾患は、5Isで覚えるとよいです。

特に糖尿病患者では心筋梗塞に伴う胸痛がない場合があるため、高血糖緊急症では心電図を忘れずに行うべきです。また背景疾患が定かでない場合には原因検索としてCTなどの画像検査の域値は低く設定しましょう。

高血糖緊急症の治療

高血糖緊急症の治療は、①輸液 ②インスリン療法 ③電解質調整(特にK)の3軸で考えます。

【輸液】
輸液による浸透圧や血糖値の推移を見て調整します。
受診後はまず1時間あたり1.0-1.5Lあたりの細胞外液を補液します。
以降は1時間毎に血糖値や浸透圧を測定しながら輸液速度を調整します。概ね250-500mL/hを目安に行うことが多いです。特にHHSでは血管内脱水がメインであり輸液だけで浸透圧や血糖値が大きく下がりやすいため、こまめに測定しましょう。
また浸透圧性脱髄症候群の観点から、急激な浸透圧の補正は好ましくないとされています(昨今議論が分かれていますが、現時点では緩徐な補正が推奨されています)。他の因子もあるためあくまで目安ですが、Naの補正速度は1.0-2.0 mEq/L/h程度がよいでしょう。
※Naは血糖値に左右されるため、補正Na濃度を計算します。
 補正Na濃度mEq/L=血中Na濃度+0.016*(血糖値-100)
Na濃度が正常~高値となる場合には、浸透圧の急激な上昇をさけるために0.45%生理食塩水(Half生理食塩水)に切り替えたほうがよいです。
 Half生理食塩水の作り方:生理食塩水と蒸留水を500mlずつ1:1で混ぜる
1号液でも代替可能ではありますが、少量血糖が含まれるため管理が煩雑になります。

【インスリン療法】
DKAではインスリンが必須、速攻型インスリンを開始します。
例:生理食塩水49.5ml + インスリン(ヒューマリンR)50単位(0.5ml)
1単位1mlの組成で作成すると調整しやすいです。
0.05-0.10U/kg/hで持続静注し血糖低下速度に合わせて調整します。
目安は100mg/dL/h程度、それ以上では速いと考えます。

【K補正】
高血糖緊急症ではインスリンやアシドーシスの補正により、Kの値がさがっていきます。そのためK濃度に合わせてKを補正していく必要があります。
輸液も調整し、K補正も必要になるためルートは2つあったほうがよいです。
K<5.5 mEq/LではK補正を開始します。
例:生理食塩水 500 mL+KCl 20 mEq/L 1時間を超えない速度で開始する
K<3.5 mEq/Lではより効率よく補正するため、中心静脈へのルートを確保し補正を検討します。

【HCO3-】
HCO3-の投与(主にメイロン)は基本は行いません。pH <7.0を下回るような重度のアシドーシスでのみ検討します。
HCO3-での補正を避ける理由はいくつか存在します。
① (機序は不明ですが)脳浮腫を引き起こすことがある
② 急激なアシドーシスの改善→Kの細胞内シフトを促進=K低下につながる
以上から、極度のアシドーシス以外ではメイロンは不要と考えてください。

終わりに

今回は高血糖緊急症に関してまとめてみました。
1時間毎の採血が必要であったり、同時に複数の項目を評価したりときめ細やかな管理が必要な病態です。
可能な限り簡易にまとめたつもりですが、施設内でのプロトコルやほかの文献とも照らして確認いただければ幸いです。

参考文献
・救急医学会.救急診療指針 改定第6版.医学書院
・Diabet Med. 2023 Mar;40(3):e15005. PMID: 36370077

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