コロナウイルスの検出法は"RT-PCR"が正しい
日本にはサイエンスがない
さてさて、冒頭で華々しく「テクニカルライティング宣言」をしたものの、世間的な本業は「医師」でありますので、時々は医学や健幸(当て字ね💖)に関する話題も書かせて頂きまッス。
先月から世界中を席巻している「新型コロナウイルス(COVID-19)問題」でありますが、日本のメディアの伝え方には致命的な欠点がひとつある。それは『科学』という裏付けがないこと。大手メディアは「事実を伝える理」ではなく、「不安や怒りによる情」を操作することで、視聴者の耳目を集めようとする。海外メディアにもこの傾向はあるが、日本のメディアは特に強い。なぜなら、日本の記者は科学を軽んじているからであります。
例えば、毎日何度も、お茶の間やネットニュースに流れる『PCR』という検査用語。これは学術的には誤りであり、正しくは『RT-PCR』と表記されるべきもの。にもかかわらず、日本ではメディアはモチノロンのこと、専門家と呼ばれる人達ですら、インタビューやネット上において「PCR」と誤用している。一体、この国はどないなっとんねん!💢
日本の報道のお粗末さは、海外のニュースと見比べればわかる。何事も、比較が大切なのであります。試しに、英国🇬🇧BBCを見てみよう。
こちらの "Are coronavirus tests flawed?" と題する記事は、新型コロナウイルスの検査問題について論じたものであるけれど、その中に次のような段落が登場する。
さすがは大英帝国!国民向けニュースでありながら、正確に『RT-PCR』と記載している👏。コロナウイルスの検出方法は、PCRではなく、RT-PCRなのだから。
コロナウイルスはRNAウイルス
新型コロナウイルス問題を考える上での一丁目一番地は、何と言っても『コロナウイルスはRNAウィルスである』という事実であります。ここを忘れると、全ての議論が足元から崩れてしまう。
しかるに、一般的な検査や実験で頻用されている『PCR (Polymerase Chain Reaction DNA依存性DNAポリメラーゼ連鎖反応)』という手法は、DNAを増幅するためのもの。これに対して、『RT-PCR (Reverse Transcriptase-Polymerase Chain Reaction 逆転写酵素連鎖反応)』は、RNAを鋳型として逆転写酵素(RNA依存性DNAポリメラーゼ)がDNAを合成し、ここで出来上がったDNAを対象にして、通常のPCR反応を行うものである。
一般の方々にとって、PCRであろうがRT-PCRであろうが、いずれも専門用語であることに変わりはなく、ど〜〜でも良いことは百も承知であるけれど、ここは学問的にトッテモ大切で、決して外してはならぬ超重要ポイントなのであります。
コロナウイルスRNAは簡単に分解される
なぜなら、「DNAを増幅する」ことと「RNAを増幅する」ことの間には、天と地の差があるからでございます。DNAと違い、RNAは圧倒的に脆弱であり、唾や体液に豊富に存在する『リボヌクレアーゼ (RNase: ribonuclease)』によって、いとも簡単に『バラバラに分解されてしまう』からであります。
最近よく聞く、「偽陰性」が生まれる背景には、【検体中に含まれるコロナウイルスRNAをリボヌクレアーゼによる破壊から守ることができていない】ことを意味しているが、このあたりのシビアな感覚は、RNA抽出などの実験経験を持った人間にしかわからない。けれど、第一線で検体を回収・保存している医師や医療従事者のうち、一体何人がRNA操作の経験を持っていることか?恐らく、ほとんどないだろう。
諸外国においても、これは同じことであるけれど、米国はさすがに違う。米国CDCのCOVID-19検査プロトコルは、実に素晴らしい。これに比べると、日本の国立感染症研究所が発行している検体採取マニュアルは、子供だましもいいところ…。
今後、時間があれば、日米の違いなどを論じてみたい。ひとまずは、今後目にするニュースや記事の中に「PCR」という言葉が登場したならば、それは「眉唾警報のサイン」と捉えて頂ければよろしいかと。