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2022年度中村哲記念講座「中村哲先生の想いを繋ぐ」第六・七講:中村哲先生の仕事を読むヒント

今回のnoteでは2022年7月20日(水)に行われた第6回中村哲記念講座「中村哲先生の想いを繋ぐ」の飯嶋秀治先生(九州大学人間環境学研究院)によるご講演と、その学びを踏まえた7月27日(水)のグループワークについて紹介します✨

飯嶋先生は、昨年度の記念講座に講師としてお迎えした清水展先生との共編著『自前の思想』(2020.10 京都大学学術出版会)をきっかけに、九州大学で少人数セミナー『中村哲の仕事を読む』に取組み、中村哲医師の著作15冊を3年かけて読んできました。中村哲メモリアルアーカイブのガラススクリーンの中村医師の言葉は、第一期のセミナーに参加した学生たちが選んでいます。今回の講義では、中村哲先生の仕事について、著書を「自分で感情や時間をかけて」読んでいくヒントや、人間が環境から学ぶプロセスを考える視点についてお話いただきました。

中村哲の仕事を読む

 飯嶋先生が生前の中村医師と接したのは2回。
飯嶋先生が中村哲医師の講演を聞いて印象に残ったこととして、以下の3つのエピソードを挙げられていました。

中村哲医師は医学部の授業料を払っていない時期もあった。中村医師が「もうだめだ」と思いながら医学部に戻ると、まだ医学部に籍があり、授業料は払われていた。どうも医学部の先生が払ってくれていたらしい。

「きれいなお金も汚いお金も、(ペシャワール会に使ってくれたら)きれいに使いますよ」と講演で話す中村医師。お金に対する距離感を柔軟にしてもらった、と飯嶋先生の価値観が変わった。

もう助けられない状態の中「一思いに息を止めてやれ」という指示で殺された人。それが良いことか悪いことか今でも分からないと語った中村医師。

 こうして中村医師と出会った後、直接会ったことが無い人がどう中村哲医師に接近できるかを考えたい、と思うようになったと飯嶋先生は語っていました。

 清水展先生との共編著『自前の思想』は、現場で働いた人を人類学のフィールドワークのお手本にしよう、というコンセプトで編まれており、飯嶋先生が担当された石牟礼道子さんのほかに、せっかくだからもう一人深く知ってみようと選んだのが中村哲医師だったそうです。石牟礼道子さんの例から、「すごい人(素晴らしいフィールドワーカー)がいると、その後継承されやすい」と考えるようになったと飯嶋先生。「人は生まれながらにしてあらゆる可能性がある。その後何に触れたかによって発達の仕方が異なる」と述べられました。
 生まれた後に「取り込んだもの」がその人を作っていき、人間が環境から学ぶプロセスを考えるべきだ、と「中村哲先生も成長する」という視点も持ってもらえるよう、中村医師の少人数セミナーを開催するようになりました。偉大な人を前にすると、どうしても顕彰(けんしょう)になってしまう見方に気を付けながら、少人数セミナーでは毎年5冊の本を選び、その中で時系列に読むようにしたそうです。自分で感情や時間をかけないものはわからない、驚かないと図書に書かれている「情報」は流れてしまう、そのために自分のスケールで「情報」を置き換え、実感できるまで読んでほしい、と学生たちにむけて語りかけ、15冊の通読で発見した中村哲医師の仕事や例について紹介されました。 しかし飯嶋先生が3年間かけて取り組んだ少人数セミナーでは、年々参加人数が減っています。飯嶋先生は「人は忘れるのが早い」と危惧し、この関心の減少は大学生が履修を決める上での情報をマスメディアからとっていることも関係している、とご指摘されました。

 その後、飯嶋先生は具体的な「中村哲の仕事」の読み方のヒントとして、中村医師の生い立ちに言及された後、1冊1冊の中村医師の著書を紹介されました。
 例えば、中村哲医師が九大医学部へ進学された後、6年の医学部課程を7年で卒業されたことに関して、飯嶋先生は「中村医師がいなかった1年に何があったのか?」と読み飛ばさないことの重要性を述べました。中村医師が読書家で、内村鑑三の全集を読了し、精神医学ではフロイトや森田療法に興味を持っていたことを手がかりに、当時九大にいらっしゃった滝沢克己教授(西田幾多郎の後継者)との関わりを示唆されました。滝沢教授が、カール・バルトやヴィクトール・フランクルにもつながる九州大学における中村医師とのひとつの導きの糸であったことは確かなようですが、文学部と医学部で接点があるのかが謎で、それは15冊読んでもわからなかったそうです。先日宮﨑信義先生のお話から、YMCAの合宿への参加とそこでの滝沢先生の講演に参加していたことが分かったと言います。「中村哲の仕事」を知るには複合的な情報から想像する力も必要で、その力が身につけば「1年の不在」という情報からも当時の中村哲医師の行動を知ることができそうです。
 そして、飯嶋先生は中村医師の著書やその本に含まれているエピソード、どのような背景があって出版されたのかなどをそれぞれ紹介されました。例えば、「『医は国境を越えて』は中村医師の苦しみが一番書かれている本なのでは」と述べられ、中村医師が何度も死を覚悟し、「もうダメかもしれない」と思った後に世界が輝き出したというエピソードを紹介されました。『ほんとうのアフガニスタン』では講演やその際の質疑応答の記録が含まれており、突然の質問に対する中村医師の切り返しが伺えるそうです。『空爆と「復興」』では他のワーカーが中村医師のどのようなところを見ていたかが書かれている、とのことでした。

受講生の反応

講演の最後に、学生たちも一人ずつ発言する機会があり、もういちど著書を読んでみようと思う、という声も複数の学生から聞かれました。以下に、受講生が述べた感想をいくつかご紹介しますね。👇

「人間の一番綺麗なところと醜いところを学んだ」というエピソードが印象に残っており、ここから中村医師の精神面での学びが興味深かった。

中村医師と自分たち(九大生)との関わりを知るのが好きだった。中村哲医師の業績に目がいきがちだが、プロセスを知ることも大切だと学んだ。

よきサマリア人の話が印象に残っている。自分の理想かつ目標は「よきサマリア人」になることだが簡単にできることではないと思っていた。中村哲先生は聖書を現代に置き換えたような方だと思った。

社会に役に立つ仕事をしたいと考えるが、中村哲先生のような偉大なことをされた方でもきっかけはすごく小さくてもいいんだと知れた。

 他にも、学部1年生の「あらゆる人間が可能性を持っている、という考え方に励まされた。中村哲先生の尊敬された方の教えは中村哲先生の「人生の隠し味」になっているという話が印象に残った」という感想に対して、飯嶋先生は「中村医師がみなさん(受講生)の中でどう活きるかはまだ分からない」と述べられました。飯嶋先生からも、ここでお話するためにも15冊通読してきてよかった、という感想をいただきました。

 最後までお読みいただきありがとうございました!🍵

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