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高齢者スポーツの帯同で思ったこと

こんにちは、Dr.K(ドクターコージ)です。

昨日今日と、over70全日本サッカー選手権関東地区予選の帯同医師業務をしました。70歳以上の方達が走り回ってサッカーをしている姿は本当に凄いと思いましたが、長年の選手生活の中で、少なく無い怪我の経験もされている方がほとんどで、病気や関節痛などで薬を飲んでいたりする方も珍しくない感じでした。

英国の23歳選手や日本の34歳選手が試合中に心停止になりニュースになったことがありますが、基本的に冠動脈疾患は、高齢の運動選手の突然死の原因として有名で、迅速なAED装着と心配蘇生が救命の要となります。幸運にもその様な事例はありませんでした。

年齢が高くても参加出来る様なルール作りがされており、フットサルの様に前後半20分ハーフタイム10分、両チーム同士が希望すれば飲水休憩も入れる、交代回数も制限無し、再参加もOKな感じでしたので、ボードの数が足りないことも結構あったりしました。

若い人達の様な、無茶な体当たり、足の引っ掛け、審判に見えない様に、押し倒したり引っ張り倒す、相手を掴んで行かせない、と言う様なことはほとんど無いですし、転ぶのも上手いですので、鎖骨骨折や脳震盪、頭部裂創、膝の靭帯損傷の様なことはほぼ起きません。とは言えゼロでは無いですけどね。

プレイ前に昔ながらの入念な静的ストレッチをされてる方も目につきましたが、最近は静的ストレッチはむしろパフォーマンスを低下させ怪我のリスクを上げると言うのが通説となっており、プレイ前はアップも兼ねて軽く動きながら行う動的ストレッチが主流になっていたりします。

中には動的ストレッチをされてる人も居ましたので、新しい知識を取り入れるのか、自分達の慣れ親しんだやり方を変えられないのか、と言う違いなのかな、と興味深く拝見しました。

スタッフの方にover80もあるんですか?と聞いてみたら、なんと今年2023年に東京都でover80リーグが新たに出来たとのこと。高齢社会の中で、長くプレーされる機会が増えるのは良いことかと思います。

ただ、適度な運動は健康長寿に有用ですが、多くのスポーツをやられている方は、むしろやり過ぎであり、疲労困憊する様な高強度の運動が週2時間を超えると、動脈硬化や様々な生活習慣病の有病率、死亡率が高まることが報告されています。そう言う意味でも、中高年層のアスリートの心血管系疾患への警戒はとても重要です。

とは言え週2時間未満の高強度の運動は、死亡率や慢性疾患の有病率の低さと相関していることも報告されているので、運動しない方が良いと言う訳では無いです。さらに軽く関節を動かしたり軽く息切れする速歩程度の運動や軽めの有酸素運動であれば、毎日行っても問題無く健康効果が報告されてますので、健康長寿も念頭に置かれている方は、参考にして頂けると幸いです。

加えて、サッカーは格闘技やアメリカンフットボールなどと並んで、頭部に衝撃を与える競技で、慢性外傷性脳症に伴う運動障害や認知機能障害が世界的に問題となっている側面もあります。
ちょうどnoteにて取り上げられてる方がいたので、シェアさせて頂きます。

この為に名選手が中高年期以降にプレイできなくなったり日常生活に支障を来たすことも少なくないことから、英国ではヘディング練習を禁止すべきと言う議論が盛んにされています。over70やover80で活躍されている方は、幸運なだけとも言えますね。

国際サッカー連盟(FIFA)も2003年8月に加盟国に向けて「ヘッドギアなどの現代的プロテクターは危険でなく、着用を認める」と通達を出しています。

英国グラスゴー大学が2019年10月に発表した調査結果では、重さ500gのサッカーボールがヘディングの際に最高時速128km/hで頭にぶつかるとし、7600人以上の元プロサッカー選手を対象に調査したところ、認知症やパーキンソン病などを発症して亡くなる確率が一般の人に比べて3.5倍も高かったことから、2020年2月にイングランドサッカー協会がユース年代のヘディング練習を制限、2022年7月からは12歳以下の試合で意図的なヘディングを禁止とするルールを試験的に導入しています。

試験導入からこの様な規制が定着すれば、競技規則を定める国際サッカー評議会に2023-2024年シーズンから12歳以下のヘディングを禁止とする規則改正をイングランドサッカー協会が申請する予定となっています。

米国サッカー協会も、脳しんとうを起こした子供の保護者らによる訴訟をきっかけにして、2015年から子供のヘディングを10歳以下は禁止、11-13歳は練習中ヘディング回数が制限されています。

日本国内でも海外のこの様な動きを受けて、2021年5月に日本サッカー協会が、子どもたちのヘディング練習を制限し、適切な練習メニュー作成を促すガイドラインを発表してます。

とは言え規制年齢期のヘッドプロテクター装着やヘディング制限で中長期的な脳症が防げるのかは未知であり、何歳まで練習制限をすれば確実に慢性外傷性脳症のリスクを減らせるのかも不明で、根本的な問題解決にならない可能性もあります。

中長期的な脳症予防の為には、イングランドサッカー協会で試験導入されている、意図的なヘディングの禁止を12歳以下だけで無くプロリーグも含めた全年齢層で導入する様なことが必要な可能性もあります。

ヘッドプロテクター装着で脳症が予防出来るのか、根本的な問題解決にはヘディング規制が必要なのか、などの検討も必要ですが、この様な病態があることが広く認知され、アスリート全体における慢性外傷性脳症のリスクが減ると良いですね。

また、サッカーやフットサルとは別に、2011年7月にイングランドで行われた55歳以上の高齢者の健康のためのサッカーを原点として、
・全員歩いてプレー(早歩きはOK)
・ヘディング禁止
・ボールの高さはゴールの高さ(1.2m)まで
・オフサイドなし
の様なルールのwalking footballと言う競技が作られ、日本サッカー協会でも、サッカー未経験者でも、運動が苦手でも、障害があっても楽しめる、認知症予防や介護予防などとしても注目しており、国際大会も開催される様になっています。

球技が苦手な方でも気軽に参加出来る様になっていると言うことで、フットサルよりもハードルは低そうですので、運動習慣のひとつとして検討してみるのも良いと思います。

【ウォーキングサッカー参考記事】

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