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【人喰いバクテリアの正しい理解】

こんにちは、Dr.K(ドクターコージ)です。
少し前から、「日本で致死率の高い人喰いバクテリアが流行している」と言う情報が流れており、一部の訪日者達は、少し前の韓国におけるトコジラミ感染拡大の様な感じで、日本への渡航を控えるべきか、と言う相談がSNS上でされていたりします。

今回は「人喰いバクテリア」について、分かりやすく適切な理解をして頂いた上で、適切な対応をして頂く一助になれば、と思い、記事にさせて頂きます。

【人喰いバクテリアとは何か】

「人喰いバクテリア」とは俗称であり、厳密にはその様な病原体がいる訳ではありません。正式名称は「劇症型溶血性連鎖球菌感染症」と言う病名で、最近日本国内では過去に例のないほど報告数が急増していることが、国立感染症研究所から発表されたことで、メディアが取り上げている訳です。

劇症型溶血性連鎖球菌感染症は、一度発症してしまうと非常に重篤になり致死率も高い細菌感染症です。感染症臨床医療においては、英語名称である”Streptococcal Toxic Shock Syndrome” の頭文字で「STSS」と呼ばれるので、今後この記事内ではSTSSと記載します。

STSSは、一度発症すると、急速に血圧が低下するとともに、複数の臓器が機能不全に陥り、高い確率で死に至る可能性がある感染症です。
米国疾病予防管理センター(CDC)による報告では、積極的な治療を受けた患者においても、STSSの死亡率は30-70%と高く、特に30代以降で発症しやすく、子供よりも大人で高い致死率となっているのが特徴です。

原因となる病原体は、子供の咽頭炎や伝染性膿痂疹(とびひ)などを引き起こす「A群溶血性連鎖球菌」で、皮膚や粘膜の物理障壁が微細に破綻した傷口から細菌が侵入し、血流を通って全身に広がることで、STSSを引き起こすと考えられています。

【STSSの日本国内報告例は実際に増えています】

STSSは世界的にも増加していますが、東京都の発表では、2015年から増加傾向にあり、2024年においては、5月12日時点で過去10年で最多の140例に迫る勢いとなっており、2024年の年末までに、更に最多記録を更新すると言われています。

2024年の報告においては、50歳以降の感染者が多いことが特徴とされています。
男性は50歳から感染者数が増え始め、70歳以上で急増しますが、
女性では50歳以降は男性ほど増加せず、70歳以上で急増する傾向です。

原因菌である「A群溶血性連鎖球菌」は、小児や若年者におこりやすい感染症の原因菌にも関わらず、STSSの場合には50歳以降、特に70歳以上に多く発症するということです。

【STSSの症状とは】

STSSは通常、発熱と悪寒、頻脈や頻呼吸、吐き気とおう吐、四肢の疼痛や腫脹、などの、呼吸器や消化器の感染症状から始まります。
特徴的で一番多い症状は「腕や脚の痛み」で、発症後24-48時間以内に血圧が急速に低下し、血流が豊富な肺や腎臓、肝臓などの多臓器不全になり、死に至ります。

皮膚がA群溶血性連鎖球菌の侵入経路になった場合は、手足の皮膚や皮下脂肪の血流障害により、壊死が急速に広がることも知られており、緊急で壊死部分を切除する処置をしなければならないこともあります。この「壊死性軟部組織感染症」という状態になった場合、40-50%の確率でSTSSに発展するとされています。

【STSSになる条件や因子は未解明】

では、ありふれた感染症の原因菌である「溶血性レンサ球菌」がどうしてSTSSを引き起こすのか、その発症メカニズムは未解明なのが現状です。

溶連菌の一部にSTSSを引き起こす株がいる、と言う仮説もありますが、発症者の周囲に特徴的にSTSSを発症する人が増える訳では無いので、連鎖球菌が作るエンテロトキシンと呼ばれる毒素に対する宿主(感染患者)の過剰な免疫反応の連鎖が、高い致死率を生み出していると言うのが通説となっています。

ですから、特にカンピロバクターなどへの感染後に一定確率で起こるとされる「ギラン・バレー症候群」の様に、溶連菌のエンテロトキシンの特定部位に対する免疫反応が、患者体内の免疫暴走を引き起こしてしまい筋肉など軟部組織を攻撃してSTSSを発症していると言う可能性もある訳です。

STSS患者の約半分は感染経路が不明ですが、
・皮膚の傷口からの経路(接触感染)
・鼻や喉の粘膜からの経路(飛沫感染)
などが主な感染経路だと考えられています。

また、
・手術直後
・帯状疱疹などウイルス感染を直後
・免疫機能が低下しやすい疾患の患者(糖尿病、悪性腫瘍、肝疾患、慢性腎障害、腎障害など)
・アルコール依存症
・非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)を常用してる方
などは免疫機能が低下しているリスクが高いので、特に注意が必要です。

最後のNSAIDs、いわゆる「痛み止め」や「熱冷まし」の薬でSTSSが何故発生しやすくなるか正確な機序は不明ですが、NSAIDsの使用により炎症の兆候を弱めて診断が遅れることや、組織内の微小血流を減らすと言う薬効により、適切な免疫反応が末梢組織で起こりにくくなっている可能性などが指摘されています。

【溶連菌感染症を見くびらない】

もちろん溶連菌(溶血性連鎖球菌)感染の特定は、インフルエンザや新型コロナの様に、喉の奥を綿棒で擦って検査キットにかけることで、5-15分で行うことが出来ます。
他の簡易迅速抗原検査キットと同様に、検査結果が陽性であれば、溶連菌感染の可能性が高いですが、精度が70-90%であり、偽陰性(本来は感染しているが陰性となること)もあるので、「陰性だから違う」とは言えないことに注意が必要です。

風邪症状が出た場合、早めに検査して溶連菌感染の可能性が高い場合には、ペニシリン系やセフェム系の適切な抗生物質を5-10日間使って治療することが多いです。
ネットで調べると「溶連菌感染症は最近感染なので、抗生物質を使わないと絶対に治らない」と言う情報もありますが、もちろんそんな事はありません。

抗生物質を服用すれば24時間以内に感染力がなくなり、服用後24-48時間経過したら、子どもでも登園・登校できるとされています。
抗生物質を飲まない場合は症状が3-7日ほど続き、周囲への病原菌拡散も長期間続くので外出や不特定多数との接触に注意が必要ですし、合併症のリスクも高まるとされています。
特に上記の様なSTSSのリスク因子のある人の場合、無理せず抗生物質を使うのが良いでしょう。

STSSの予防策は?

ではSTSSの予防策は無いのか?と言うと、一応現在考えられている有効な対策としては、「日頃から適切な感染対策を行う」「生活習慣を見直す事で慢性疾患を悪化させない」「高リスクの人は特に傷の管理を意識する」と言うところに尽きると思います。

具体的に書かせて頂くと、溶連菌も病原体のひとつですから、ウイルスや真菌などと同様に、主な感染経路は「飛沫感染」と「接触感染」です。
新型コロナウイルスの感染経路実験にて判明した、飛沫より微細な粒子であるエアロゾルが密閉空間内に停滞することで起こる「エアロゾル感染」も一定の割合で起こする可能性も否定できません。

ですから基本的な感染対策の励行が有効です。

・食事前、トイレ利用後は手をきちんと洗う
 水道水流水で15秒こすり洗い
 泡立てた石鹸水で5秒もみ洗いし流水で10秒すすぐ
 水が使えない時は擦式アルコール製剤を使うか、清潔なおしぼりやウェットティッシュで2-3回満遍なく手指表面を清拭する

・溶連菌感染者はマスクを適切に使う

・定期的に内外気換気を行うか、適切な空気清浄機を稼働させる(密閉空間内の内気循環は感染を拡大させるので逆効果)

などの基本的対策は有効です。過度に行う必要はありませんが、状況に応じて感染対策を行いましょう。

より詳しい一般的な感染対策を知りたい方は、過去に書いた下記記事を参考にして下さい。

加えて、STSSの原因菌「溶連菌」は、喉の痛みを起こしやすく、高熱と強い喉の痛みが特徴です。特徴する疾患です。
特に免疫機能が低下しやすい高リスクの方々は、STSSの発症を予防する意味で「強い喉の痛み」を感じた場合、医療機関で早めに診察や検査をしてもらうようにしましょう。
「高熱と喉の痛みがあり、持病があるので、最近話題の人喰いバクテリアの検査をお願いします」と予め医師に伝えるのも良いですね。

STSSで侵入経路として多いのが皮膚や粘膜の「傷口」からの侵入です。ですから、傷が出来たと分かった場合、
・創部は石鹸と流水で清潔に保つ
・傷口は絆創膏などで保護をする
・傷が深い場合や赤く腫れ熱を持って膿が出ている様な感染性の傷の場合、早めに医療機関を受診する

と言う様な適切な処置や判断も、STSS予防と言う意味では有効です。

そして最後に大切なのは、日頃から生活習慣を意識して改善することで、免疫機能をベストな状態に保っておくことです。

食事については下記記事を参考にして下さい。

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