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King Crimson ‎– Live In Hyde Park, July 5, 1969 (2002)

 1969年の7月5日、デビュー前のKing Crimsonはハイド・パークに集まった60万を超える聴衆を相手にすさまじい演奏を繰り広げている。だが人々の目当てはもちろん、当時アルバムすら出していなかったこの無名バンドではなく、元メンバーBrian Jonesの追悼コンサートのためにやってくるThe Rolling Stonesであった。
 Stonesの前座という大役をつかんだCrimsonだが、この時バンドは結成から1年も経っておらず、さらに持ち曲のストックも貧弱だった。とはいえ名盤『In The Court Of The Crimson King』を遺した初期メンバーによる貴重な音源である。
 本作の伝説性は、完全なるアウェーの状態から始まった1曲目「21st Century Schizoid Man」でほぼ決定づけられている。怒りに満ちたGreg Lakeのベース・ボーカル、叫びにも似たIan McDonaldのサックス、激しさと正確性をあわせ持ったMichael Gilesのドラム、そしてRobert Frippの金属質なギターの響きは、驚くことにスタジオ版と比べても何の遜色がない。たちまち観客の度肝を抜いたバンドは、続く「In The Court Of The Crimson King」の荘厳なコーラス、「Epitaph」でのMcDonaldのうすもやのようなメロトロンの音色で、その何重にも重ね織ったような複雑な音楽性を見せつける。目まぐるしい転調でアヴァンギャルドな展開の「Travel Weary Capricorn」もとても印象的だ。
 Donovanのジャズ・ロック「Get Thy Bearings」は初期Crimsonの数少ないレパートリーの一つだった歌だが、興味深いことに後の「Pictures Of A City」の原型となるフレーズが本作の時点で登場している。「Mars」はホルストの組曲〈惑星〉を引用した緊迫のエンディング・ナンバーで、観客の手拍子や警報サイレンまでも巻き込み混沌とした様相を見せる。
 新人バンドの持つ粗などみじんも感じさせないコンサートは、熱狂的なスタンディング・オベーションで幕を閉じ、新たなジャズ・ロックの時代の到来を数十万の人間に確信させた。本作はCrimsonの持つ壮大なアンサンブルが、デビュー前からすでに完成していたことを証明する決定的な証拠だ。