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Al Martino – I Love You Because (1963)
1950年代の後半のあいだ、アメリカにAl Martinoの居場所はなかった。彼を囲い込もうとしたマフィアの手を逃れるために英国へ移住したあと、現地で発表したレコードはいずれも米国内では鳴かず飛ばずであった。ようやく折り合いがつきアメリカで活動ができるようになった頃には、時代は変わり、Martinoはマフィアの代わりにロックンロールという強力なライバルに立ち向かわねばならなくなっていた。
再起を図ったアルバム『The Exciting Voice』には、イタリアにルーツを持つ者としてのMartinoのアイデンティティと、かつての大ヒット曲「Here In My Heart」の最高のヴァージョンが含まれていた。しかし、Martinoが真の復活と個性の確立を遂げたのは本作、とりわけシングル「I Love You Because」においてである。Elvis PresleyやJohnny Cashといったトップ・シンガーが歌い、カントリーの名曲として定着していたこの歌を、Martinoはゆったりとしたストリングスに乗せてリッチなアダルト・ポップに仕上げた。
同様に、Eddy Arnoldの打ちひしがれるようなラブソング「It's A Sin」から、Bill Andersonの代表曲「Still」にいたる、新旧を問わないカントリー・ヒッツが目を惹く。「Merry-Go-Round」は抑制されたサウンドが魅力で、「Losing You」は彼が恋人を抱きしめながら歌っているのが目に浮かぶようだ。「I Love You Because」に次ぐ注目点は「Take These Chains From My Heart」のアレンジで、ソウル・ファンならRay Charles版のカバーを思い起こすだろう。ここでMartinoは高揚するコーラスを穏やかなクルーナーで包み込むように歌い上げている。
Martinoの新分野を開拓した「I Love You Because」のシングルはビルボード・チャートの1位に輝き、それにけん引されるように本作も大ヒットを果たした。