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Roland Kirk Quartet – Rip, Rig & Panic (1965)

 これはRoland Kirkの最も評価されたアルバムであり、同時に特に有名な作品でもある。しかし当のKirkは、自身が寄せたライナー・ノーツ(実際はジャケットの中央にあしらわれている)の中で、〈私のすることを聴くと、人々はパニックになるのさ〉といった旨を述べている。
 確かに本作には様々な要素が詰めこまれている。個性的なメンバーからなる嵐にも似たフリーフォームを筆頭に、後のJoel Dornとの共同作業につながっていくような実験主義と音楽的ダダイズムは、リスナーの頭をたたき割るほどの勢いだ。だがその一方で、このレコードには伝統的なジャズへのトリビュート精神もあふれんばかりなのだ。
 冒頭の「No Tonic Press」はその名の通り、Kirkの敬愛したLester Youngに捧げられた。とはいえKirkのブロウは個性全開で突き進み、中盤部ではアンサンブルが完全にストップして、Jaki Byardが見事なストライド・ピアノを聴かせるという驚くべき展開も見せる。「From Bechet, Byas And Fats」も3人のジャズの巨人へ敬意を表したナンバーで、豊かな楽器を取り入れた独自のスイングを堪能できる。
 ハイライトはタイトル曲の「Rip, Rig And Panic」だ。Richard Davisの鳴き声のようなベースに呼応するようにKirkのサックスがうなりを上げる。そして、プロデューサーのJack Tracyがグラスをたたき割るやいなや、さらにフリーキーで攻撃的な協演が始まる。Elvin Jonesは爆弾のようなドラム・ソロを響かせ、どこからともなくサイレンの音が鳴りわたる。だが本作の真に恐ろしいのは、この曲に続くのが美しいワルツ・ナンバーの「Black Diamonds」であるところかもしれない。
 本作はダウンビート誌の評において、満点の5ッ星を獲得した。Kirkはジャズの枠を超えて敬愛される存在となり、後にBruce SmithとGareth SagerのふたりはThe Pop Group解散後に結成したバンドに、本作への敬意をこめて〈Rip Rig + Panic〉と名付けた。

ℹ️ 本作の後、Jonesを除くメンバーが再び集まって、アルバム『The Jaki Byard Experience』の録音に着手した。