Big Bill Broonzy And Washboard Sam (1962)
時代時代に適応することが出来たBill Broonzyはともかく、本作が世に出ていなければWashboard Samの名は戦前ブルースの歴史の中に深く埋もれてしまっていたかもしれない。シカゴ一派から飛び出したカントリー系作品の中でも指折りの傑作である『Big Bill Broonzy & Washboard Sam』は、モダンなエレクトリック・ギターと田舎っぽいリズムが絶妙な距離感で同居した興味深いアルバムだ。おそらく演奏には60年代らしさは感じないだろう。だがそれもそのはずで、実際に本作が録音されたのは1953年のことだ。
ウォッシュ・ボード(洗濯板)をかき鳴らしてブルースに独特のリズムを加えるWashboard SamことRobert Brownは、Broonzyをして〈俺の義理の兄弟〉と言わしめた名プレイヤーだ。歌も堪能な彼は、定番曲である「Diggin' My Potatoes」などでは深みのあるボーカルを聴かせる。
「Little City Woman」のハウス・ロッキンなギターを聴けば、セッションのMVPはギタリストのLee Cooperであると分かるだろう。Howlin' Wolfのシカゴのデビュー・セッションにも貢献している彼の都会的なセンスは、Brownの持ち味であるカントリー的な風合いを見事にアップデートさせている。一方、ジャジーな「Lonesome」で聴かれるブラシのようなウォッシュ・ボードと、モダンなギター・プレイの掛け合いなどは見事の一言だ。
Broonzyの代表曲「By Myself」では、ピアノにMemphis Slimが加わる。かつて演奏をともにした盟友3人が再会して歌うブルースには、気心の知れた雰囲気と同時に、なんとも言えない贅沢さも満ちている。いったいこれ以上何を望むというのだろうか?