Milt Hinton – East Coast Jazz/5 (1955)
1950年代に入ると、ジャズ音楽はそれまでの大所帯バンドからコンパクトなアンサンブルの形態へとシフトしていった。それはミュージシャンたちにとってはビジネスの面における大きな転換とも言える。Cab Callowayの楽団で長きにわたって活躍したMilt Hintonのような実力派ベーシストは、華やかなクラブでの演奏よりも、もっぱらスタジオ録音に関わる機会が増えている。
とはいえ、Hintonのリーダー作は貴重だ。サイドマンとしてのベーシストの最高峰と言うべき彼の残したソロ・アルバム『East Coast Jazz/5』は、Tony Scottのクラリネットをフィーチャーした奥ゆかしいサウンドが心地いい。しかし、ScottとDick Katzのピアノが小さく縮こまっているという意味では決してなく、ベースの太い存在感と絶妙な比率で共鳴していく。また、「Over The Rainbow」のような誰もがメロディを知る名曲では、Hintonがメイン・テーマを奏で、ピアノとOsie Johnsonのドラムは最小限、さらにScottのクラリネットはあくまで後半に添えるのみ、という職人技を非常に伸びやかにプレイしてみせた。
「Upstairs With Milt」ではテクニカルな早弾き、「Ebony Silhouette」では深い弓弾きの音色を披露し、ベース愛好家の琴線を揺さぶる。ジャズの枠を越え、ブルースやR&Bにも至る多くのセッションに参加した彼のテクニックを存分に味わえるアルバムだ。