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三上寛 & 古澤良治郎 – 職業 (1987)

 70年代に異形のフォーク・アルバムを何枚も生み出してきた三上寛は、その中でもひときわ名盤と名高い『Bang!』に参加したドラマー古澤良治郎とともにコンサート・ツアーに出かけた。79年の陸前高田におけるショーは、地元のレコード・レーベルのオーナー照井顕によって録音され、音質はブートレグと大差ないが、結果的にフリーク・フォークとフリー・ジャズ二つの領域をまたぐライブ・アルバムの傑作が誕生した。
 冒頭の3分間にわたる古澤のジャズ・ドラムは次第に祭り太鼓のようなビートに変貌し、ステージに登場した三上は「青森県北津軽郡東京村」を壮絶なボーカルで歌い上げる。この曲を含め、ライブのレパートリーは70年代前半のベストと言える内容で、「カラス」と「三上工務店が歩く」は三上のしゃべりが乗りに乗って力強いトーキング・ブルースになっている。一方「Bang!」はコンクレートを多用していたスタジオ版にも負けないほど暴力的なサウンドだ。また、2部にわたる「海男」のポエトリー・リーディング、「最後の最後の最後のサンバ」における狂気のラテン・ビート、アンコールで歌った「このレコードを私に下さい」の露悪的な詞世界と、本作には何度でも味わうべきすごみがある。
 インディー・レーベルからの限られたイシューだった本作は、2010年の再発により初めて陽の目を見たといえる。また、本作はサブスクリプション・サービスで手軽に聴くこともできるが、トラック名の表記に誤りが多いので注意が必要である。

ℹ️ 会場となった陸前高田市民会館は2011年の東日本大震災で被災し130人を超える犠牲者を出す悲劇に見舞われたが、20年に〈奇跡の一本松ホール〉の愛称とともに再建された。