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Booker T. & The M.G.'s – McLemore Avenue (1970)

 The BeatlesとJimi Hendrixにまつわる逸話で印象深いのは、Hendrixがかの名盤『Sgt. Peppers Lonely Hearts Club Band』のタイトル・トラックを、アルバムの発売からわずか3日後にはライブで演奏していた、という驚くべき事実だ。一方で、The Beatlesの『Abbey Road』に感銘を受けたThe M.G.'sのオルガニストBooker T. Jonesは、そのトリビュートのために全編をカバー曲で埋めつくしたレコードを発表している。それもHendrixにも負けないくらい早いフットワーク(『Abbey Road』の発売からたった半年程度のスパンだった)でだ。
 世界最高のバンドとはいえ、自らと同時代に生まれた作品にこれほどまでの情熱を捧げる、というのは時に勇気のいる行為だ。実際『Abbey Road』は現在でさえ評価が固まりきっているとは言えないほどに革新的な作品だったからだ。だがThe M.G.'sはその大きな要因のひとつであるB面のメドレー構成に、あえて大きな敬意を捧げている。4曲のうち、シングル化された「Something」以外は『Abbey Road』の曲を独自の編成で再メドレー化しており、かつ大部分がインスト・ソウル(だが「The End」では珍しくボーカルが入るシーンがある)のスタイルという形で、自分たちの個性をしっかりと反映させることに成功している。
 「Here Comes The Sun」で聴かれるように、Jonesは時にオルガンからピアノに乗り換え、いつにもまして伸びやかで歌い上げるようなプレイを披露する。原曲ではGeorge HarrisonとJohn Lennonの白熱したギター合戦を繰り広げる「The End」だが、本作ではSteve Cropperの明快なるギター・ソロが強調された。そしてスワンプ風の名曲「Come Together」でのDonald Dunnのうねるようなグルーヴ。こうした彼らの職人芸は相変わらずだが、長年The M.G.sをThe M.G.sたらしめてきたAl Jackson, Jr.のドラムは特筆に値する。Ringo Starrのスタイルへのオマージュを捧げつつもファンク色を失わない彼のやり方こそ、まさにプロフェッショナルだからだ。