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Canned Heat – '70 Concert: Recorded Live In Europe (1970)

 1970年の春にヨーロッパ・ツアーに乗り出したCanned Heatは、第二のブルース大国と化していたイギリスではとりわけ熱烈な歓迎を受けた。古典からサイケデリックまでを幅広く取り入れた彼らの挑戦的スタイルにはすでに十分すぎるほどの定評があり、さらにシングル「Let's Work Together」のヒット(全英2位)もその熱気に拍車をかける。
 ユーモアのあるBob Hiteのボーカルや名手Alan Wilsonのギター・ワークはもちろん、新加入したHarvey Mandelのおかげで、Canned Heatのアンサンブルはかつてなく重厚なものに変貌していた。聴衆の反応は一貫して前のめりで、バンドの発するいかなる音にも神経を研ぎ澄ましているのがよく伝わってくる。
 Arthur Crudupの「That's All Right」では、Mandelのうねりのある独特なプレイに思わず酔わされるが、それに続くWilsonの機知とセンスに満ちたソロもこれまた圧巻だ。「Bring It On Home」はCanned Heatの精神を示すブギーで、ここでハープの本領を見せるWilsonは、続く「Pulling Hair Blues」ではLarry Taylorのベースだけをバックにボーカルも執っている。この歌はWilsonの神経質な性格からくる、髪を無意識にむしってしまうという自身の悪癖を指している。暗くミニマルなサウンドと厭世的な内容の歌詞には、間もなくこの世を去るWilsonの鬱屈とした心情がそのまま表れているかのようだ。
 John Lee Hookerにインスパイアされた「London Blues」や、ファンキーな「Let's Work Together」の盛り上がりは甲乙がつけがたい。だがラストの「Goodbye For Now」におけるスロー・ブルースのたまらない抑揚とテンポにこそ、Canned Heatひいてはブルースの美学がある。