Mal Waldron – Left Alone (1960)
〈もう「Left Alone」は演らない。今の私はもう孤独ではないから〉と、Mal Waldronは後年のインタビューで語ったこともあったが、ご存知の通りこの宣言はすぐに撤回された。ステージでは根強いジャズ・ファンのアンコールに、スタジオでは名曲のリメイクを求めるプロデューサーのリクエストに、Waldronは生涯応えつづけたのだった。
Billie Holidayの詞に、彼女の専属ピアニストとして活動していたWaldronが曲を付けて生まれた「Left Alone」は、彼にとって思い入れの強い作品でもある。Holidayの死によって人前で歌われることが無かったために、Waldronのソロ・アルバムで追悼歌のような形でのお披露目となった。本作は基本的にトリオ形式だが、この「Left Alone」だけはWaldronが直々にJackie McLeanを指名してHolidayの歌の代わりに参加させている。情感を増していくMcLeanのブロウとWaldronの悲しげなタッチの対比はまさに化学反応のようで、ピアノ・トリオのアルバムながらこの曲はアルト・サックスの歴史に輝く名演として刻まれてもいる。
物悲しい「You Don't Know What Love Is」はHolidayのオハコとして有名だが、このアルバムは全篇が暗くしんみりしているわけではない。優雅な「Cat Walk」や、Waldronのもう一つの持ち味である連弾(しばしばモールス信号に例えられる)が活きた「Minor Pulsation」、アップ・テンポで緊張感が満ちた「Airegin」と、全曲が聴きどころとなっている。