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Wanda Jackson – Encore (2021)

 数多のアーティストの中でも、とりわけロックンローラーが納得のいく引退作を作れるケースなど、ほんのひと握りである。だがWanda Jacksonはそれを見事なやり方でやってのけた。2012年の『Unfinished Business』以来となったアルバム『Encore』は、Jacksonの60余年もの歌手人生を締めくくった偉大な一枚であり、スター、女性、先駆者としての彼女のプライドの証明でもある。
  Jacksonはこの作品で、Joan JettとKenny Lagunaという心強いコンビをプロデューサーに迎えた。収録された曲の多彩さは、ロックやカントリーを渡り歩いてきたJacksonの歌手としての多才なキャリアをそのまま反映しており、冒頭の3曲を聴くだけでもそれはわかる。Jacksonらしさ満点のロックンロール「Big Baby」、賑やかなロカビリー「Two Shots」、そして重厚なギターが鼓膜を切りつけるブルース「You Drive Me Wild」。ほかにも60年代カントリーの名曲「It Keeps Right On A Hurtin'」や、JacksonがかつてAngaleena Presleyに提供した「Good Girl Down」のセルフ・カバーは、きっとマニアはたまらないだろう。
 オリジナルの新曲にはいずれもJettも参加しており、「Treat Me Like A Lady」はアトランティック・ソウルの名曲を思わせる堂々としたナンバーだ。最後は、人生のさまざまな経験が反映されたようなバラード曲「That's What Love Is」で、Jacksonは愛にまつわるシンプルな教えをリスナーたちに託して、このアルバムは締めくくられる。
 アートワークには往年のJacksonのポートレートがあしらわれた。しかし、リスナーが真に目に焼き付けるべきは、若きElle KingやJettたちと共演した「Two Shots」のMVにおける姿だ。齢80を超えてなお生き生きとしているJacksonの表情は、誰よりも誇りに満ちていて美しい。