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Vashti Bunyan – Just Another Diamond Day (1970)

 60年代の半ばにMick JaggerとKeith Richardの提供したシングルでデビューしたVashti Bunyanは、当時の音楽ビジネスの世界に訴えかけることは出来なかった。1970年に発表された『Just Another Diamond Day』は、今日ではモダン・フォークの大傑作として知られているが、70年代においては最も過小評価されたアルバムの一つだった。
 The Incredible String Bandのプロデューサーとして、フォーク作品に定評のあったJoe Boydは、Bunyanの歌声の持つ魅力を見事に引き立てることに成功した。素朴で儚げだが確かな芯の通っている彼女のボーカルには、つつましいギターやDave Swarbrickによる思いやりのあるフィドルが寄り添っており、英国の良心的な原風景を描き出している。
 冒頭の「Diamond Day」は2分にも満たない曲だが、これだけでもLPレコードの前にリスナーを31分間縛り付けてしまうだけの魔力がある。童謡のマザー・グースを思わせるようなかわいらしい「Lily Pond」、Fairport Conventionの創設メンバーSimon Nicolのバンジョーが軽快に味付けをする「Come Wind Come Rain」など、アルバムの一曲一曲に見事なまでの個性が与えられた。
 このアルバムの後Bunyanは30年以上にわたって表舞台からは遠ざかってしまうが、2005年にファットキャット・レーベルから復活作『Lookaftering』を発表し、その才能を改めて示してみせる。娘のWhyn Lewisによる素晴らしいアートワークも話題となった。