Ann Peebles – Full Time Love (1992)
70年代メンフィス・ソウルの名門レーベルだったハイが休止状態になるのと同時期に活動を停止していたAnn Peeblesは、89年にディスコ・ポップの風も取り入れたコンテンポラリーなアルバム『Call Me』で復活を遂げた。しかし、Ron Levyがプロデュースし92年に発表された『Full Time Love』では、PeeblesがHi RhythmとThe Memphis Hornsとふたたび相まみえ、ともすればハイの諸作よりもグッと古典主義で力強いブルース・サウンドへ回帰している。
彼女が本作で自他問わず様々な作品へオマージュを捧げているのは明らかで、メンフィスらしいロックンロールのギターを添えた「St. Louis Woman」、そして「Part Time Love」をもじったような『Full Time Love』というタイトルにもそれは表れている。往年のAlbert Kingを思わせるタイトル曲には、ブルズアイ・ブルースの若手で、Eric Galesの兄でもあるLittle Jimmy Kingがギターで参加した。華奢なPeeblesだが、ここでの彼女のボーカルは大御所のブルースマンのように尊大で、自身に満ちたカリスマ性を感じさせる。カバー曲で取り上げたThe Rolling Stonesの「Miss You」にはハーモニカの名人であるSugar Ray Norciaをフィーチャーし、オリジナルよりゆるやかなテンポながらもどっしりとしたファンクとして仕上げた。
自信の最大のヒットとなった「I Can't Stand The Rain」を再録しているのもこのアルバムのポイントで、重たいサイケデリックだった曲調を、装飾を極力そぎ落とした大胆なアレンジで表現している。ゴスペル風に歌い上げるPeeblesのボーカルは見事の一言だ。このナンバーを聴くだけでも、彼女が全盛期と言われる70年代の頃から衰えたなどとは、誰も思わないだろう。