James Brown – Hell (1974)
強烈なカリスマと個性でブラック・ミュージックの歴史を塗り替えたJames Brownの中期のカタログの中でも、『Hell』は彼自身の姿がジャケットにフィーチャーされていないという点で、まず物珍しいアルバムである。加えて2枚組という大作志向や一見コンセプチュアルな題名も際立っているが、重要なのはそこではなく、このアルバムの骨太なグルーヴ、大胆なセルフ・リメイク、情熱的なバラードといった要素が、Brownの持つ様々な音楽的エッセンスを過不足なく抽出していることである。要するに『Hell』は超強力な作品なのだ。
銅鑼の音から始まる「Coldblooded」や「My Thang」は70年代のBrownらしさがよく表れたシングル曲だ。また、タイトル曲の「Hell」は後半のサックス・ソロが聴きものとなっている。往年のヒット・ナンバー「Please, Please, Please」の思い切ったラテン・アレンジは恐ろしいほどに奇抜な仕上がりだ。
B面はAORのような「These Foolish Things Remind Me Of You」、「A Man Has To Go Back To The Cross Road Before He Finds Himself」と、「When The Saints Go Marchin' In」、「Stormy Monday」といったジャズ・ブルースの名曲のカバーが交互に続く。特に「Stormy Monday」は歌詞だけを拝借したと言った方が正確なまでのハード・ファンクに生まれ変わっている。
2枚目の白眉はなんといっても長尺な「I Can't Stand It」と「Papa Don't Take No Mess」で、執拗なBrownのシャウトとFred WesleyとMaceo Parkerを擁したThe J.B.'sのホーンが黄金の掛け合いを聴かせる。