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The Beatles – The Beatles (1968)

 バンドという集団としての結束力は失われ、各々のメンバーのエゴの衝突が日常茶飯事になりながらも、The Beatlesは一大サイケデリック叙事詩である『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』を作り上げている。
 翌年発表の本作は、コンセプトを持った前作とは対照的な構造といえる。メンバーが持ち寄ったアイデアを具体化し、繋げていくというパッチワークのような作業を繰り返した結果、彼らの中では最もボリュームの大きい2枚組のアルバムとなった。一見まとまりを失うような作業だが、それが却って功を奏している場面もある。John LennonとYoko Onoによる西部趣味の「The Continuing Story Of Bungalow Bill」からGeorge Harrisonの「While My Guitar Gently Weeps」へは音が途切れず曲が切り替わっており、弛緩したアウトロから緊張の張りつめたピアノのイントロに移行する。雰囲気があっという間に切り替わっていく瞬間のカタルシスはまさに〈散漫の妙〉と言わざるを得ない。
 アルバム『Help!』以来では久々のロックンロールチューンである「Back In The U.S.S.R.」に始まり、実験音楽「Revolution 9」、子供向けの童謡「Ob-La-Di, Ob-La-Da」、涙を誘う美しいアコースティック「Blackbird」。あらゆる試行が詰まっていながらアルバムのアートワークはあまりにも空しい白一色である。ここからメンバーたちの人間関係は崩壊の一途をたどることになるが、The Beatlesはそんな作品に自らの名前を堂々と名乗らせた。それほどの胆力を持ったバンドは、人類史上彼らしか存在しない。