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dr_kobaia
Sal Mosca – Sal Mosca Music (1977)
同時代のピアニストの中でも特にクリエイティブかつ卓越したピアニストであるSal Moscaのソロ・アルバムは、彼が齢50にもなろうという時期にようやく発表された。Lennie Tristano一派のひとりでありながら、 Lee KonitzやWarne Marshといった同門と比べて表舞台に立つ機会の少なかったMoscaの演奏は、彼らのサイドマンとしてのものでしか聴くことができなかったが、1970年代の後半からは活動の大半を完全なソロ・ピアノで行うようになる。
自宅に設けられたスタジオ内でひとり、自作のナンバーを弾いた本アルバムは、Moscaの諸作の中でも最も個人的で自省に満ちた一枚といえるかもしれない。息を呑むほどにスリリングなハーモナイズ、自在に変化するテンポはそれぞれ見事だが、それでいながら、演奏は荒々しいアヴァンギャルドに陥ったり破綻を見せることは終始なく、常に美しさが強調される。オリジナルのライナーノーツにはTristanoの言葉が寄せられていて、その中でMoscaのこうしたスタイルは〈完全な自然体〉と表現されている。
独特なブルースの解釈を聴かせる「Vitamin Blues」、後のコンサートに定番として登場するようになった「A Family Song」、特に外連味に満ちた「S.A.M.」などが収録されているが、「M.F.M.」にはThelonious Monkのフレーズが飛び出す一幕もある。どの曲もピアノ、ひいてはジャズ音楽という表現の真髄を提示されているようだ。
ℹ️本作のなかで、タイトルに3つのアルファベットを冠したナンバーは、すべてMoscaの子どもたちのイニシャルから採られたものだ。