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Max Roach & Cecil Taylor – Historic Concerts (1984)

 〈ジャズの二大巨匠であるMax RoachとCecil Taylorがついにデュエット・コンサートを開く〉とアナウンスされたことで、1979年のNYは大いに沸き立っていた。歴史的なライブになることは誰の目にも明らかで、両者の録音機材や公演のレコード化にまつわる様々な取り決めが事前に行われた。
 この二人のデュエットは奇跡的であると同時に、非常に自然発生的な現象とも言える。Roachのドラムのスタイルはその自在なメロディックさで同時代の多くのプレイヤーを刺激し続けてきたし、一方でTaylorのプレイは、ジャズ評論家からはしばしばドラム的と評されており、彼自身もまた〈ピアノを打楽器として捉えている〉と語っていたのだ。
 Taylorの体調不良による延期を経て、79年の12月にコンサートは開かれた。ただビートをキープするという役割から解放されたRoachのドラムは、ピアノの音を飲み込まんとして唸りをあげる。そこには遠慮や忖度などは一切ないのだが、時おりRoachはTaylorから美しい何かを引き出すために、おだやかなプレイや自由なパーカッションを用いてピアノを誘発しようとする。
 一方で、Taylorのピアノの高音部が生み出すえも言われぬ緊張感は常に会場全体を支配していく。鍵盤をたたきつけるような音を発したと思えば、その10分後には美しい不協和音でRoachのプレイに呼応する。
 二人の壮絶なインタープレイは実に約1時間20分におよんだ。音楽によるトランスを体験するならこれ以上のものはない。