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The Rolling Stones – Let It Bleed (1969)

 花と血の60年代を締めくくるのにこれ以上のアルバムはない。バンドでの居場所を失っていたBrian Jonesが関わった最後の作品であり、かつ次期ギタリストのMick Taylorが初めて参加して、The Rolling Stonesにとっても時代の節目に位置している本作には、当時の終末観と来たるべき70年に向けた前向きなMick Jaggerのエールが混在している。
 彼らのキャリア上最も重要な曲が収録されたアルバムでもあるが、そのモチーフの多くは決して明るいものではない。「Gimmie Shelter」は戦争への漠然かつ逼迫した怯えと恐怖をあおっているうえに、「Midnight Rambler」で描かれるのは傍若無人な殺人鬼の悪行だ。いずれもブラック・ミュージックらしいグルーヴやコーラスを取り入れながらも、中心にあるのは重苦しい黙示録や露悪趣味そのものだった。
 一方、Robert Johnsonによるクラシック「Love In Vain」のカバーや、カントリー・テイストにあふれた「Country Honk」が本作のサウンドにさりげない彩りを添えている。特に後者は、同年にシングルで発表されていた「Honky Tonk Women」に、より泥臭いアレンジを施すという試みがなされた。
 特筆すべきはラストを飾る「You Can't Always Get What You Want」だ。美しい聖歌隊の合唱から始まりながらも、「Gimmie Shelter」と同様にゴスペルチックなコーラスを取り合わせた挑戦的な造りのアンセムだ。〈But if you try sometimes well you might find. You get what you need〉という荘厳さと力強さをたたえたJaggerのメッセージは、迷える聴衆の魂に確かな救いを与えている。