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James Taylor – JT (1977)

 1970年の傑作『Sweet Baby James』がJames Taylorの悲しみや苦しみが生みだしたとするなら、77年の本作はその正反対の、優しく柔らかい感情から生まれたアルバムといえそうだ。Taylorはここ数年のあいだにあったCarly Simonとの蜜月の日々、そして実子SallyやBenjaminの誕生で経験したあたたかな喜びを真摯に記録している。特に2曲目の「There We Are」では感極まったTaylorがSimonの名を呼びかけているほどだ。
 プロデューサーとして久々にPeter Asherを迎えた本作は、サウンドの面でいえば様々なテイストを網羅した充実性が聴きものだ。なじみのギタリストDanny "Kootch" Kortchmarは陽気なロックンロール「Honey Don't Leave L.A.」を提供したほか、50年代のR&Bヒット「Handy Man」は実に穏やかなアレンジ。「Bartender's Blues」はDan Dugmoreのスティール・ギターをフィーチャーした素晴らしく完成されたカントリー・ロックである。
 このアルバムにはこうした作りこまれた魅力もあれば「Traffic Jam」のようにラフな即興性を感じさせる(とはいえコーラスはTaylor自身の声をオーバーダブしたものだ)トラックもある。だが冒頭で触れたように、本作の背骨となっているのは「Your Smiling Face」や「Secret O' Life」に見られるような、私小説かと思うほど実直につづられているTaylorの言葉の数々だ。
 結果的に『JT』は『Sweet Baby James』に並ぶトリプル・プラチナとなった。そして、莫大な金額でワーナーからTaylorを引き抜いたコロムビアの決断が正しかったことが証明されたのである。