ABBA – Arrival (1976)
1974年に名曲「Waterloo」でユーロビジョン・ソング・コンテストの優勝を勝ち取ったABBAは、ヨーロッパの枠を超えアメリカのリスナーにまでも受け入れられる存在になった。だが、それ以上にこのグループが偉大だったのは、翌75年の「SOS」や「Mamma Mia」の世界的ヒットで、〈ESCの優勝者はそれ以降英国では売れなくなる〉という呪いに打ち勝ったことだ。
もう怖いものなどなくなった状況で発表された『Arrival』には、〈B〉の字を反転したおなじみのロゴが初めて使われ、同時にポップ史上最高傑作と呼ぶべき3つのシングル曲が収録された。「Dancing Queen」はきらびやかなディスコ賛歌であり、ゲイ・コミュニティのアンセムとしてだけでなく、映画や舞台で何度もリバイバルしたおかげで、いつの時代でも愛されることになった稀有な一曲である。この曲がABBAの陽の面の象徴であるならば、「Knowing Me, Knowing You」は恋愛が生みだす苦しみをこれ以上なく克明に描いた陰の美学だ。ことフラストレーションに関しては、「Money, Money, Money」におけるコーラスの力強さとメッセージの明快さにまさるものはない。
ファンに根強い人気の「Dum Dum Diddle」やインスト・トラックの「Arrival」は、『Gold』のようなベスト盤では味わえない、オリジナルならではの名曲だ。また、アルバムには収録されなかった素晴らしいパフォーマンスもある。「Fernando」はもともとFrida Lyngstadのソロ・アルバムに収録された、北欧風ラブ・ソングの英語版だ。76年当時はほとんどの国でオミットされていたが、現在はCDのボーナス・トラックとして聴くことができる。