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Bob Thiele & Gábor Szabó – Light My Fire (1967)

 このアルバムを聴く前には、プロデューサーBob Thieleがどれほどの名作を世に送り出した傑物であるか、そして60年代のジャズ芸術の成立にどれだけ貢献した男なのか、といった能書はこの際脇に置いておく必要がありそうだ。そうでなければ、『A Love Supreme』をはじめとしたThieleの名盤との空気の違いに中てられた、多くのジャズ愛好家たちと同じ道をたどることになるかも知れない。
 Thieleはまず自身のアルバムをヒット・ナンバーと絢爛なアレンジに満ちた作品に仕立てることにした。製作にあたっては、以前から積極的にラーガ・ジャズに取り組んでいたギタリストGábor Szabóや、フィルモア・ファミリーのバンドSalvationにシタール奏者として参加していたBill Plummerといったメンバーを迎え入れている。いずれもThieleが作品をプロデュースしてきた実力派だったが、その中にはまだ10代だったTom Scottもクレジットされていた。
 本作が能天気で単純なパーティー・アルバムとして聴き過ごされてしまう理由は、The DoorsやByrdsを始めとした同時期の〈ポピュラーでトガッた〉ロック・ヒットを、口当たりのよいソウル・ジャズに仕上げていた所にもあった。しかし、ThieleがBob Dylanの「Rainy Day Woman #12 & 35」の中で〈Everybody must get stoned〉の仰々しいコーラスを甘んじてフィーチャーしているのはなんとも意味深で、今聴けば背筋がぞくっとするような皮肉な印象を与える。
 「Forest Flower」でのPlummerのシタールはまるでギター・ソロのようにメロディアスで、一方Szabóの筆による曲も民族風の味わいがさらに増している。「Sophisticated Wheels」は濃厚なシタールの音色から始まるが、たちまちSzabóの熱いギターとビッグバンド特有のラテン・グルーヴがなだれ込む。これらは落ち込んだ気分には格好の特効薬だ。