The Notorious B.I.G. – Ready To Die (1994)
The Notorious B.I.G.の『Ready To Die』は、ローリング・ストーン誌をして〈Ice Cubeによる『AmeriKKKa's Most Wanted』以来の強力なソロ・デビュー作である〉と言わしめた偉大なアルバムだ。Easy Mo Beeをはじめとした達人のビートに、彼が生まれ育ったゲットーの悲惨な状況と、富と名声へのあくなき執着、そして尊大なセクシャリティが生のまま盛り込まれている。特にSean "Puffy" Combsがプロデュースしたアルバム・イントロは、赤ん坊の産声と同時にBiggieが生まれた1972年のヒット曲「Superfly」が流れるのだが、その後の物語の恐ろしい展開はまさにギャング映画のワンシーンを見ているような気分になる。
アルバムのサウンドは、ポップ・チャートにおける初のトップ10ヒット曲となったメロウ・ナンバー「Big Poppa」から、とげとげしい「Machine Gun Funk」まで、上質なファンクに彩られている。また、CombsはBiggieのリリックに関するセンスを全面的に信頼していたため、デビュー作でありながらも彼のフロウは自由そのものだ。「The What」ではMethod Manと、「Respect」ではDiana Kingと繰り広げているラップの掛け合いも素晴らしい。
聴く者すべてが真に打ちのめされるのがラストを飾る「Suicidal Thoughts」で、自殺志願を抱く黒人青年の心理を克明に描いたこの曲は、ギャングスタのコンセプト・アルバムといえる本作の中でも最も物語的であり、かつ生々しい。後のBiggieの死にざまを知らなくとも実に不吉な内容だ。
現実と野望を突きつけるBiggieの作風はその後の東海岸ヒップホップの基準を示し、あらゆる層のリスナーの目を開かせた。NYだけでも25万枚を売り上げた『Ready To Die』は、スラム街でくすぶる若者には5カラットのダイヤを手にするような甘い夢を抱かせ、ゲットーの闇を知らない人々には5セントのガムを噛みしめる時のみじめな気分を味わわせたのである。