Marc Johnson's Right Brain Patrol – Magic Labyrinth (1995)
1992年の『Right Brain Patrol』で静謐かつエキゾチックなワールド・ミュージックを標榜したMarc Johnsonは、新たに気鋭のギタリストWolfgang Muthspielを迎え、グループ名も新たに『Magic Labyrinth』を発表した。変わっていることと言えば、Miles Davisの「Solar」やラテン・ジャズの大家Hermeto Pascoalの「Ne Um Talvez」といったカバー曲を取り上げるようになったことだが、それらが本作のような個性的な作品に違和感なく収まっているのは驚くべきことである。
コンセプトは相変わらず〈ワールド・ミュージック〉なのだが、ジャズの持つ複雑なポップ感覚はより深みを増している。「J.P.」はパーカッショニストArto Tunçboyacıyanの民族的な歌で始まりつつも、後半でMuthspielのギター・シンセがモダンなソロを展開するという実に挑戦的な作風だ。フラメンコのような雰囲気を湛えた「Around That Time」や、アコギの美しさが際立った「Samurai Hee-Haw」は三者の織りなす複雑かつホットなインタープレイが聴きものである。特に後者はアルバム『Bass Desires』のバージョンと聴き比べるのも楽しいだろう。
2日間にわたったレコーディング・セッションは真に独創に満ちたものだったようで、「A Paco」や「Solar」の中で、Tunçboyacıyanは様々な試行の結果、スピーカーのボディを直接叩くことで理想のサウンドを手に入れたのだという。人間の右脳が司るひらめきを重視したグループ名にふさわしいエピソードである。