Muddy Waters – At Newport 1960 (1960)
1960年はブルースのLPが一般的とは言い難い時代だったが、伝説的R&Bレーベルであるチェスの看板を背負ったMuddy Watersとなれば話は別だ。事実、彼は当時の時点でベスト盤とライブ盤、そしてトリビュートの企画盤(シカゴブルースの大先輩Big Bill Broonzyに捧げたもの)を連発するだけのバイタリティを持っていた。
ニューポートのジャズ・フェスティバルのステージには、Watersの長い相棒であるハープ・プレイヤーJames Cotton、ラストで粋なピアノを聴かせるOtis Spannらが立った。披露されるのはシカゴ・ブルースの神髄ともいえる強烈なバンド・サウンドだ。ねばついたギターから始まる「I Got My Brand On You」から、ヒット・シングルの「Hoochie Coochie Man」など、白人オーディエンス相手でも緩みは一切ない。ドラマーFrancis Clayも素晴らしい仕事をしており、「I Feel So Good」で聴ける彼の爆弾のようなドラムは驚異的だ。
会場にいた白人のうち、いったいいかほどがヴードゥーのアイテムである〈モジョ〉のことを知っていたのだろう?しかし、そんな野暮な疑問を跳ねかえすように、二部構成のブルース美学からなる「Got My Mojo Working」でオーディエンスは最高潮を迎える。『At Newport 1960』は南部たたき上げの黒人文化が、ジャズ志向の白人中流階級へ殴り込みをかける実録の一部始終でもあったといえる。
1960年のジャズ・フェスティバルは会場で起きた騒動のせいで中止の危機にさらされたが、ピアニストのSpannがその悲しみを受けてアドリブのピアノを披露する。うって変わって物悲しいスローなブルースがラストに加わることによって、ドラマチックなコントラストが思わぬ形で生み出されている。
Watersのブルースは後のブルース・ロック・アーティストたちの必修科目となった。Eric ClaptonやPaul Butterfieldなど、影響の広さは計り知れない。