Sly & The Family Stone – Stand! (1969)
歴史的大傑作である『Stand!』は、信じがたいことに1969年の時点においてSDGsで掲げられた目標を3つも4つも含んでしまっている。Sly Stone率いるバンドThe Family Stoneには人種や性別の垣根などはなく、その歌にはまるでゴスペルのような一体感があり、平和と平等を高らかに歌い上げている。そして彼らが何よりも革新的だったのは、ソウル、ジャズ、ロックといったあらゆる音楽の境界線さえも取り払ってしまったことだ。これはまさしく音楽産業の一大イノベーションであった。
アルバム『Life』の「Dance To The Music」をよりファンキーに錬成した「I Want To Take You Higher」は、ウッドストック・フェスティバルで観客のピースサインと共に象徴的に歌われた。ともに踊ることが平和への一番の近道と確信していたSlyは、ヘビー級のベース、統率の執れたリズミカルなホーン、そして自らのハープとオルガンで陶酔に満ちたサイケデリック・ファンクを作り上げる。
差別をアイロニーたっぷりに歌う「Don't Call Me Nigger, Whitey」では、黒人と白人の不毛な言葉の応酬を聴かせるが、一転して「Sing A Simple Song」で繰り広げられる単純な言葉の反復は、ファンクの完成形と言っていいだろう。アルバム中最も陽気な「Everyday People」はビルボードの1位を4週連続で記録した。ダンス・ミュージックの未来を示した本作には陽の気が通底しているようにも思えるが、次作『There's A Riot Goin' On』の持つ重苦しいサウンドの片鱗が、13分に及ぶ大曲「Sex Machine」の中に既に現れている。