Bob Marley And The Wailers – One Love (1991)
初期のThe Wailersが活躍したころは、ジャマイカ都市部の治安の悪化や若い世代の無気力が社会問題になっていた時期と重なっており、その状況は彼らのヒット・ナンバー「Rude Boy」や「Jailhouse」、そして「Simmer Down」などによく反映されていた。90年代に入って登場した編集盤『One Love』には、キングストンの厳しい現実を訴える歌詞はもちろん、欧米の音楽シーンへの強い憧憬をうかがわせる選曲など、興味が尽きない要素ばかりだ。
加えて、世界の音楽シーンに進出してからは早々に失われてしまったコーラス・グループとしての瑞々しさは、今聴いても十分に素晴らしい。ゴスペルの定番「Amen」をリードするPeter Toshのタフなボーカルには惚れ惚れするし、ルーディーへの慈悲に満ちた「Let Him Go」はBunny Livingstonの優しさがにじみ出ている。幻のメンバーとなったJunior Braithwaiteをフィーチャーした「It Hurts To Be Alone」の別テイクが聴けるのも嬉しいところだ。
The Impressionsの詞を引用した「One Love」(後にBob Marleyがレゲエの一大アンセムにした)の他にも、The Beatlesのカバー「And I Love Her」やBob Dylanの改作である「Rolling Stone」といったロック好きの琴線に触れるものもある。
時系列に沿った曲の並びも良い点で、The Skatalitesの陽気なスカが気持ちいい「Simmer Down」と、「Jailhouse」のどっしりとしたグルーヴを聴き比べれば、The WailersがMarleyを中心としたレゲエ・グループとして発展していった様子がよく分かる。